著者
花嶋 かりな
出版者
独立行政法人理化学研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

大脳新皮質のニューロンは脳室帯とよばれる部位の神経幹細胞から生み出され、初期ニューロン-深層投射ニューロン-上層投射ニューロンと順次異なる細胞種を産生することで、最終的に6層の構造を形成する。本研究では発生段階に応じて産生される細胞種が切り替わるメカニズムを明らかにするために、大脳皮質ニューロンの産生スイッチにおける転写因子Foxg1の機能を探った。まず条件付きノックアウト(cKO)マウスを作製し、Foxg1を通常より5日間遅らせた胎生14.5日目から発現させて産生される細胞を解析したところ、14.5日目までの脳では初期ニューロンが過剰に産生されたが、Foxg1を発現させるとすぐに深層投射ニューロンの産生開始が認められた。さらに発生段階が進むと上層投射ニューロンも産生され、最終的にはFoxg1の発現開始を遅らせたcKOマウスでも正常マウスとほぼ同等のニューロンをもつ大脳新皮質が形成された。さらにこのcKOマウスを用いてFoxg1の下流遺伝子プログラムを解析したところ、Ebf2/3, Eya2等多数の転写因子がFoxg1により転写抑制され、これら遺伝子の発現制御領域へのFoxg1の結合配列が、進化的に哺乳類以降で高度に保存されていることが示された。これらの結果より、大脳新皮質の形成は初期ニューロン産生というデフォルトのプログラムを初めに抑制することで投射ニューロンへの分化が進み、この産生の順番をFoxg1が正しいタイミングで切り替えることで、大脳新皮質の最大の特徴である6層構造が獲得された可能性が示された。