著者
花村 博司
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.75-92, 2015-09-30 (Released:2017-05-03)

本稿は,新出型・再開型・前提提示型という,日本語の会話における話題転換の型により,接続表現や言いよどみのような話題転換表現がどのように使いわけられているかをあきらかにする.新出型は転換後の話題が以前の話題とつながらない型,再開型は転換後の話題が以前の話題とつながる型,前提提示型は話題を継続するための前提的発話が直前の話題とはつながらない型である.これまでの研究で,前提提示型は話題転換として取りあげられていない.つながりのあるいくつかの発話a_1, a_2, … a_nから構成されるまとまりを話題Aと考えると,前提提示型話題転換では,話題Aにつながる話題Bの最初の発話b_1が直前の話題Aとはつながらない.たとえば,「ダブルワーク」についての話題Aに,「平日の休みにバイトしてくれと嫁に言われる」という発話b_nを追加する前提として,「時短休暇は平日休みになるシステム」という説明の発話b_1を入れるような場合である.話題転換表現は,3つの型でまったく異なる使用傾向がある.新出型では,先行話題の終了を示す沈黙が出やすく,接続表現は出にくい.再開型では,「でも」などの接続表現が出やすく,言いよどみは出にくい.前提提示型では,「あの」などの言いよどみのあとに沈黙が出やすく,先行話題終了の沈黙は出にくい.前提提示型の最初の発話で聞き手とのあいだに認識のずれが生じないように,話し手は話題転換表現を使いわけている.