著者
芹澤 寛隆
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.89, no.3, pp.421-444, 2015-12-30 (Released:2017-07-14)

日蓮が書いたとされる文章、通称日蓮遺文は非常に多く現存しているが、その真偽については、未だにその評価が定まっていないものも多い。真偽の問題については、現在もなお研究者間で意見が分かれており、明確な基準が存在しない。特に近年は日蓮遺文中にみられる中古天台思想の濃淡という、これまで大きな判断基準とされてきたものが揺らぎつつある。こうした現状を受けて本稿では、日蓮の文章中に見られる説話の内容及びその受容の可能性から、日蓮遺文の真偽判別の可能性を提示した。その結果、これまで真蹟とされてきたいくつかの文献について、疑わしい可能性があることを示すことができた。こうした判定は、これまで行われておらず、日蓮の文章における真偽判定の問題に一石を投じることが出来ると思われる。同時に、説話を用いての真偽判定は、日蓮滅後の門下における偽書作成の土壌を確認し、彼らによる齟齬を見つけ出すのにも有効であると考えられるのである。