著者
若江 雅子 森 亮二 吉井 英樹
出版者
総務省情報通信政策研究所
雑誌
情報通信政策研究 (ISSN:24336254)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.27-47, 2019-03-20 (Released:2019-04-03)
参考文献数
4

インターネット広告の重要性が増している。その広告費(媒体費+制作費)は2007年の6,003億円から2017年には1兆5,094億円に増え、新聞広告の5,147億円の3倍、テレビメディアの1兆9,478億円にも迫る勢いである。その強みは、ウェブの利用履歴から利用者一人ひとりの趣味嗜好・性別・年齢・居住地などに関する情報を取得し、それに沿った広告を表示できることにあるだろう。興味関心連動型などと呼ばれるこうした広告は、かつてはAmazonや楽天のようなECサイトが、自社ネットワークにアクセスした顧客から利用履歴を直接取得して、その顧客の閲覧画面に広告を表示する形で行われていたが、近年は、利用履歴を顧客から直接取得しなくても同様の広告を掲載することが可能になっている。それは、クッキーや広告IDなどブラウザや端末の識別子に紐付いた利用履歴が、各種プラットフォームを通じて流通しているためである。 個人情報保護法は、個人情報を第三者に提供する場合、原則として本人の同意を義務づけている。しかし、クッキーや広告IDなどのブラウザや端末の識別子に紐付いた情報は、それ単体では個人識別性がないとして、個人情報としての規制を受けない。このため、利用者の同意を得ないまま、第三者に提供することが可能であり、実際に、広告事業者の間で広範にやり取りされているのが現状である。だが、これらの情報は、提供先が保有する情報と突合された場合に個人情報に変わり得る性質のものである。では、提供元では個人識別性を有さない情報が、第三者に提供され、その結果、提供先で個人識別性を有する情報となった場合、第三者提供の規制を受けるのだろうか。こうした問題については、必ずしも明確な整理がなされていないのが実情である。 本論文は、ウェブサイト利用者の使用するブラウザや端末の識別子に紐付いた情報が、利用者が提供を想定していない事業者に取得され、事業者が保有する他の情報と突合された結果、個人情報となる現状について検証し、こうした情報の流通について現行の個人情報保護法により規制が可能かどうか検討を試みるものである。