著者
若狭 芳男 佐々木 幹夫 藤原 淳 飯野 雅彦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.126, no.1, pp.5-9, 2005 (Released:2005-09-01)
参考文献数
37
被引用文献数
1 1

薬物自己投与実験では,動物がレバースイッチを押すと静脈内あるいは胃内に留置されたカテーテルを介して一定量の薬液が体内に自動注入される方法が多く用いられ,アカゲザルおよびラットでの研究報告が多い.自己投与実験法により,薬物の強化効果の有無,強さおよび発現機序の研究が行われる.強化効果の有無は,自己投与回数の多寡によって判定されるが,自己投与回数は,自己投与の経路,静脈内への薬物注入速度,用量範囲,実験スケジュールなどの要因によって影響を受ける.すなわち,静脈内経路ではレバー押し行動に引き続き薬理効果が迅速に発現するため,胃内経路と比べて強化効果をとらえやすい.静脈内自己投与では,1回に注入される用量が同じでも注入速度を増すと摂取回数が増加する.強化効果を検索するための用量範囲は,弁別刺激効果もしくは何らかの中枢作用の発現用量などを目安に選定することが妥当と考えられる.Substitution proceduresでは比較的短期間に幅広い用量の強化効果の有無を検索できるが,ベースライン薬物がテスト薬物の自己投与に影響する場合がある.テスト薬物の自己投与を比較的長い期間観察する連続自己投与実験法では,強化効果の有無をより高い精度で検索できる.強化効果の強さを薬物の間で比較するための方法としては,比率累進実験法あるいは行動経済学の考え方に基づく需要曲線を用いる方法などが報告されている.強化効果の発現機序の検索には,特定の受容体のノックアウトマウスを用いた自己投与実験が行われている.自己投与実験期間中に発現する中枢作用の観察により,その薬物が乱用された場合の危険性を予測する参考情報が提供される.