著者
草塲 英子
出版者
岩手県立大学盛岡短期大学部
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

台湾先住民のなかでも(1)アミ族、(2)近年タイヤル族から分離独立することが認められたタロコ族、タロコ族と民族的には同系統だが民族名称問題で、タロコ族と称することを拒んでいるセデック族に焦点をあてた調査・研究は以下のようにすすめられた。(1)アミ族は、台湾の東海岸の平野部に居住している民族であるため、早くから漢民族との交流も行われたり、日本植民地時代、山地の先住民よりは開化した民族とした位置づけが与えられたりしていた。なかでも都市部に近い平野部に居住するアミ族村落では、漢民族や他の先住民たちが入り込んで人口が爆発的に増加した地域もある。文化的にも漢民族からの流入も多い。そのような状況において、異民族の流入がかえってアミ族的アイデンティティを生み出す契機がつくられてきた。こうしたことを、アミ族村落への人口流入問題を扱いながらとりあげた。また、キリスト教や仏教、道教といった宗教を取り込む一方で、アミ族的な神世界とのかかわり方が存続することをとりあげた。その他、異民族流入以前からアミ族がもっていた時間の観念や、数詞に注目した。(2)2003年、タイヤル族から分離独立したいという希望をもっていたセデック族の一部、タロコ族は、タロコ族という名称を民族名称として名乗ることが承認された。タイヤル、セデック、タロコの関係について、従来、日本であまり知られることがなかったが、こうした3種類の名称が使用される背景には、日本植民地時代の民族分類の結果が影響を与えている。タイヤル・セデック・タロコをめぐる帰属と名称に関する運動の展開について、調査し、整理した。その他、(3)台湾で「原住民」と呼ばれる先住民の法的な扱いの変遷を歴史的におったもの、(4)戦前、台湾で調査研究し、今日の台湾での民族境界や民族概念の在り方に大きな影響を与えた馬淵東一等の研究について整理、考察した。