著者
田尾 雅夫 草野 千秋 深見 真希
出版者
京都大学大学院経済学研究科
雑誌
京都大学大学院経済学研究科Working Paper
巻号頁・発行日
no.J-63, 2006-12

90年代、ニュージーランドの行政改革は、行財政改革を試みる多くの先進諸国から高く評価されていた。84年ロンギ労働党政権で、レーガノミックスやサッチャリズムを反映したロジャーノミックスにより、自由主義・競争主義・市場主義の徹底した「小さな政府」が追求された。やがて財政は好転し、失業率が改善され、物価は安定し、経済成長率も高めに推移するようになった(岡田、1998)。 しかしながら、この福祉国家から市場国家への劇的な転換は、一方で「貧困の発生率と困窮度合いを強めた」「社会的排除と疎外に対する不安をより強めた」「ほとんどの保健・医療改革は、期待されたような経済効率においては失敗した」(芝田・福地、2004)、「若者の自殺率と犯罪率で世界第一位」(OECD、2001)など、社会政策としては失敗といえなくもないような問題も指摘されている。 行政改革を成功させたとして世界から注目を集めたニュージーランドであるが、果たして成功と評価できるのかどうか、包括的な検討が必要であろう。ニュージーランドという福祉国家を取り巻く概括的な論議はすでにいくつもなされているが、地方自治という観点からは、その実態はまだあまり明らかにされていないように思われる。国家の機能が小さな政府へと「本質的要素」に収斂された(ボストン、2004)のであれば、地方自治体は、どのようにしてその「残余」を担っているのだろうか。あるいは、そこにどのような問題が残されているのだろうか。本稿では、地方自治の観点から、ニュージーランドの行財政改革について、あらためて検討したい。以下では、まず政治的国家的背景、次いで地方自治について概観する。