著者
久本 憲夫 川島 広明
出版者
京都大学大学院経済学研究科
雑誌
京都大学大学院経済学研究科Working Paper
巻号頁・発行日
no.J-68, 2008-05

雇用形態の多様が言われて久しいが、雇用形態を異にする人々の協業についての突っ込んだ研究は多くない。本ワーキングペーパーでは、放送業界、とくにラジオ放送職場における雇用形態の多様化の実態について紹介することを目的としている。日本の民間放送は大阪と愛知で民間のラジオ放送が1951年に開局したことにはじまり、今年で57 年目を迎えている。現在は、AM・FM 放送、地上波テレビ放送、衛星放送・CS放送など様々な放送局が開局し日夜途切れることなく放送を送り届けている。そのなかで、ラジオ放送は人々の生活に密着し日々役立つ情報を提供し続けている。ラジオを聞く多くの人は、「親がラジオを聞いていたから私もラジオを聞くようになった」という。とはいえ、ラジオ離れは進んでおり30 歳代の親を持つ若年層はラジオを聞かなくなってきている。中学生のAMラジオを聞いている比率が2%、高校生に至っては1.5%前後になる。就職希望の大学生40%以上が自社およびラジオの番組を聞いたことがないという1。若者に強いと言われるFM放送も例外ではなく開局当時の聴取者を引き連れて聴取者層が移行しているのみで、新たな聴取者層は十分に獲得できているとは言い切れない。AM放送は、開局時からの聴取者の高年齢化が進む中で、中高齢者に特化した番組を制作してきたために、若年層から30 歳代の聴取者を十分には獲得できていない。そのため、制作経費削減や人員削減の波が押し寄せている。業務委託化の当初は、「現場は非正規労働者に基幹は正規労働者」にと言われた時代もあったが、現状では正規労働者(以下、「正社員」とする)だけでは企業も放送も維持できず、基幹的な仕事においても、それ以外の労働者(以下、「非正社員」とする)2に依存する状態になっている。本稿では、番組の自社制作率68%のある中堅ラジオ局A社を主たる事例として取り上げることにより、正社員と非正社員の業務分担の状況を明らかにしたい。
著者
Ida Takanori Suda Masaya
出版者
京都大学大学院経済学研究科
雑誌
京都大学大学院経済学研究科Working Paper
巻号頁・発行日
no.59, 2002-07

It is said that the privatization of the Japanese National Railway is a success since the management, productivity, and service have improved. However, as expected, the gap of both management and productivity tends to widen between the larger main-island JRs and the smaller three-island JRs. This paper will estimate the cost structure of the six JRs after the privatization. The main points we will make are as follows: first, the economies of scale exist in both the incumbent railway service and the Shinkansen service; second, there is no conclusive evidence to show that the economies of scope exist between them; third, the cost gap between the main-island JRs and the three-island JRs is large; and fourth, the cost gaps within them are also large.
著者
田尾 雅夫 草野 千秋 深見 真希
出版者
京都大学大学院経済学研究科
雑誌
京都大学大学院経済学研究科Working Paper
巻号頁・発行日
no.J-63, 2006-12

90年代、ニュージーランドの行政改革は、行財政改革を試みる多くの先進諸国から高く評価されていた。84年ロンギ労働党政権で、レーガノミックスやサッチャリズムを反映したロジャーノミックスにより、自由主義・競争主義・市場主義の徹底した「小さな政府」が追求された。やがて財政は好転し、失業率が改善され、物価は安定し、経済成長率も高めに推移するようになった(岡田、1998)。 しかしながら、この福祉国家から市場国家への劇的な転換は、一方で「貧困の発生率と困窮度合いを強めた」「社会的排除と疎外に対する不安をより強めた」「ほとんどの保健・医療改革は、期待されたような経済効率においては失敗した」(芝田・福地、2004)、「若者の自殺率と犯罪率で世界第一位」(OECD、2001)など、社会政策としては失敗といえなくもないような問題も指摘されている。 行政改革を成功させたとして世界から注目を集めたニュージーランドであるが、果たして成功と評価できるのかどうか、包括的な検討が必要であろう。ニュージーランドという福祉国家を取り巻く概括的な論議はすでにいくつもなされているが、地方自治という観点からは、その実態はまだあまり明らかにされていないように思われる。国家の機能が小さな政府へと「本質的要素」に収斂された(ボストン、2004)のであれば、地方自治体は、どのようにしてその「残余」を担っているのだろうか。あるいは、そこにどのような問題が残されているのだろうか。本稿では、地方自治の観点から、ニュージーランドの行財政改革について、あらためて検討したい。以下では、まず政治的国家的背景、次いで地方自治について概観する。
著者
藤井 秀樹
出版者
京都大学大学院経済学研究科
雑誌
京都大学大学院経済学研究科Working Paper
巻号頁・発行日
no.J-19, 2001-10

本稿は、会計学とりわけ情報利用者指向的会計論の立場から、非営利組織の存在理由と活動環境のあり方について検討することを目的としている。
著者
依田 高典
出版者
京都大学大学院経済学研究科
雑誌
京都大学大学院経済学研究科Working Paper
巻号頁・発行日
no.J-31, 2003-02

ネットワーク産業の生態学的分析を本論ではただネットワーク経済学と呼び、ネットワーク産業に共通する特質を明らかにしたい。本論が明らかにするところでは、ネットワーク産業には二つの柱がある。第一の柱は、ボトルネック独占と呼ばれるものである。第二の柱は、ネットワーク外部性と呼ばれるものである。ここでいうボトルネック独占は供給側の規模の経済性であり、ネットワーク外部性は需要側の規模の経済性である。規模の経済性が存在するシステムではいわゆるポジティブ・フィードバックが働き、初期値に応じて異なった振る舞いを示す。その場合、必ずしも効率的でない技術が普及したり、非効率的な技術がいつまでも居座り続け、社会的効率性を妨げることが起こる。また、システムが非線形なので、パラメータを変化させたときの影響が極めて不確定になり、産業政策の効果が予測不可能になるという問題も起きる。つまり、ネットワーク産業は複雑系なのである。本論文では、こうしたネットワーク産業の特質を順を追つて解説していこう。