著者
久保 和彦 荒木 弘幸
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.162-166, 2010 (Released:2011-07-01)
参考文献数
2

医療保険のないホームレスに対する医療行為には種々の制約があるため、多くの社会的・医学的問題を抱えている。今回、国民医療費について大いに考えさせられるホームレス症例を経験した。症例は、40 歳、男性。船員で、海上勤務ばかりで自宅を持たず、陸上勤務時に置き引きに遭い、船に戻れず解雇されてホームレスになった。右血性耳漏が出現して当科を受診し、右真珠腫性中耳炎再発の診断で右耳手術 (canal wall down) した。退院すると通院加療ができないため、入院を継続して術後処置を続け、定期的なガーゼ交換が必要なくなってから退院した。この症例で、ホームレスでなければ払う必要のなかった過剰な医療費は 177 万 1,695 円だった。景気回復は、経済的な理由でホームレス化した約 3 分の 1 のホームレスを一般社会に戻せる。政府は保険診療点数を減らすことで国民医療費を下げるのではなく、もっと本質的な問題に力を注ぐべきであろう。