著者
荻原 湧志 萬 礼応 大矢 晃久 川島 英之
雑誌
研究報告システムソフトウェアとオペレーティング・システム(OS) (ISSN:21888795)
巻号頁・発行日
vol.2023-OS-158, no.3, pp.1-8, 2023-02-14

ロボット用ミドルウェアの代表格である ROS (Robot Operating System) において,Transform Library (TF) ライブラリは各座標系間の変換情報を有向森構造で管理し,効率的な座標変換情報の登録,座標変換の計算を可能にした.ROS の中核的なパッケージであるにも関わらず,TF ライブラリには次の三つの問題があることがわかった.まず,非効率な並行性制御により,TF の有向森構造へのアクセスが完全に逐次化され,アクセスするスレッドが増えるに従ってパフォーマンスが低下する問題がある (P1).次に,データの鮮度よりも時間的整合性を優先するため,座標変換を計算する際に最新のデータを参照しないという問題がある (P2).最後に,有向森構造の変更によって座標変換の計算時に意図しないエラーが生じるという問題がある (P3).本論文では,データベースの並行性制御法における 2PL 及び Silo を応用することにより,P1 と P2 を解決した.これらの手法は,読み取りのみのワークロードにおいて従来手法の最大 429 倍のスループットを示し,読み書きを組み合わせたワークロードにおいて従来手法の最大 1276 倍のデータ鮮度となることを示した.