- 著者
-
荻野 敦子
- 出版者
- JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
- 雑誌
- 日本理学療法学術大会
- 巻号頁・発行日
- vol.2003, pp.G0360-G0360, 2004
【はじめに】日本の選手達に海外交流の機会を作り、日韓両国の文化交流を目的とした知的障害者サッカー親善大会は、2001年秋に第一回大会が横浜にて韓国を迎えて開催された。第二回大会は2003年10月10日~13日までの4日間、韓国・釜山にて開催され、日本代表選手団は海外遠征を果たした。結果は接戦の末、5-3で日本が逆転勝利を収めた。<BR>今回、日本代表チームのトレーナーとして帯同し、知的障害者スポーツに携わる医事として今後の課題を検討したので報告する。<BR>【選手・スタッフ概要】今回遠征に参加した選手は関西・四国地方の養護学校に通う学生および養護学校OBによる選抜チームで、学生5人、社会人15人から成る。選手平均年齢は19.9歳(16~31歳)であった。同行したスタッフは、地域サッカー協会副会長1名、養護学校教諭・知的障害者施設職員7名、臨床心理士1名、医師1名、理学療法士1名であった。<BR>【現場での対応】今回現地で何らかの治療行為を受けた選手は6名であった。その内容は、後遺症を有する選手へのリコンディショニング、足底胼胝の徐圧処置、靴擦れ、試合中の急性外傷(足部打撲)に対するRICE処置と救急病院への搬送、下腿打撲、頭痛であった。大会期間中、選手たちは自分の症状を自ら訴えることがほとんどなかったため、スタッフから症状の有無を問い掛け、スタッフルームに来てもらった。<BR>【理学療法士(PT)の役割】本人から痛みやコンディショニング不良の申告がなければ症状を発見することは困難であり、訴えがないということは、重篤になり得る外傷を見逃してしまう危険性を意味する。したがってPTは試合会場のみならず、生活全般において選手とコミュニケーション図り、詳細に観察する能力が求められる。また通常現場で求められる対応に加え、自ら訴えることが少ない選手だからこそ、試合前後のコンディションチェックを個別に行い、外傷・障害の早期発見と処置を徹底する必要がある。<BR>【今後の課題】知的障害者スポーツに帯同するにあたり、PTとして現場で対応できる幅広い技術を受け持つ以外に、選手の社会性に対する支援も必要であると考える。PTとしては選手の怪我や体調不良を見逃してはならないが、選手に依存されてはならない。つまりスタッフがすべて聞き出すのではなく、状態の良し悪しに関わらず自分のコンディションを選手から訴えさせることが重要になる。スタッフに促されてから訴える現状では選手の自主性を伸ばすことは出来ないため、自ら自己表現する習慣をつけ、その自主性を支援できる関係が望ましいと思う。<BR>選手の自主性が乏しいのは知的障害のためではなく、支援者の支援が先にたち自己表示をする経験が少なかったからではないだろうか。彼らの努力によって伸ばせる能力と我々が支援すべき範疇の見極めが今後の課題と考える。