著者
菊川 恵三
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.36, no.9, pp.58-66, 1987-09-10 (Released:2017-08-01)

古今集三番歌「春霞たてるやいづこ」には「たたる」の本文を持つ伝本が存在し、この歌を再録した歌集にも「たたる」の本文を持つものは少なくない。この「たたる」の語法は万葉集の東歌・防人歌に見られるものと同一起源であり、平安初期の人々にとって風俗歌などを通じて、特殊ではあるがなじみのある表現だったのではないか。しかし、平安後期になるにつれ、なじみが薄れた結果「たてる」の本文に取って変わられたと考えられるのである。