著者
中村 公則 菊池 摩仁 綾部 時芳
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.129-135, 2019 (Released:2019-07-29)
参考文献数
37

抗菌ペプチドは,ヒトを含む多細胞生物において殺微生物活性を持つ自然免疫の主要な作用因子であり,その生体防御における重要性は広く認識されている.腸上皮細胞は広大な表面積を構成し,たえず病原体および食物を含む外部環境や常在する腸内細菌に暴露されている.腸上皮細胞の1系統である Paneth細胞は抗菌ペプチド・αディフェンシンを分泌し,病原体の排除と常在菌との共生により腸管自然免疫を担っている.このPaneth細胞αディフェンシンは病原菌を強く殺菌する一方,常在菌にはほとんど殺菌活性を示さない特徴を持つことから,生体において腸内細菌叢の制御を介して腸内環境の恒常性維持に重要な役割を果たすと考えられる.近年,腸内細菌叢の構成異常 “dysbiosis”と,炎症性腸疾患および肥満や動脈硬化などの生活習慣病や癌など様々な疾病との関係が報告されてきているが,いまだその詳細なメカニズムは不明である.抗菌ペプチドα-ディフェンシンの腸内細菌叢制御メカニズムを理解することは,腸内細菌叢と疾病との関連解明に重要な役割を果たすと考えられる.