著者
中村 公則 菊池 摩仁 綾部 時芳
出版者
公益財団法人 腸内細菌学会
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.129-135, 2019 (Released:2019-07-29)
参考文献数
37

抗菌ペプチドは,ヒトを含む多細胞生物において殺微生物活性を持つ自然免疫の主要な作用因子であり,その生体防御における重要性は広く認識されている.腸上皮細胞は広大な表面積を構成し,たえず病原体および食物を含む外部環境や常在する腸内細菌に暴露されている.腸上皮細胞の1系統である Paneth細胞は抗菌ペプチド・αディフェンシンを分泌し,病原体の排除と常在菌との共生により腸管自然免疫を担っている.このPaneth細胞αディフェンシンは病原菌を強く殺菌する一方,常在菌にはほとんど殺菌活性を示さない特徴を持つことから,生体において腸内細菌叢の制御を介して腸内環境の恒常性維持に重要な役割を果たすと考えられる.近年,腸内細菌叢の構成異常 “dysbiosis”と,炎症性腸疾患および肥満や動脈硬化などの生活習慣病や癌など様々な疾病との関係が報告されてきているが,いまだその詳細なメカニズムは不明である.抗菌ペプチドα-ディフェンシンの腸内細菌叢制御メカニズムを理解することは,腸内細菌叢と疾病との関連解明に重要な役割を果たすと考えられる.
著者
綾部 時芳 中村 公則
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究は、小腸のPaneth細胞が分泌するαディフェンシンの作用から炎症性腸疾患の病因・病態を解明して新規治療を提案することが目的である。本年度は、αディフェンシンと腸内細菌からみた殺菌及び共生メカニズムを、cryptdin およびHD5と腸内細菌との会合から解析した。Acid-Urea PAGE、western blot法、sandwich ELISA等を用いた生化学的・免疫学的解析および殺菌活性測定によって、腸内常在細菌であるLactobacillus、Bifidobacterium等と、非常在菌(病原菌)であるSalmonella、Staphylococcus等でαディフェンシンとの会合状態が異なることを示した。また、クローン病モデルマウスを用いてαディフェンシン異常による腸内共生環境の破壊 (dysbiosis)の可能性について解析した。クローン病モデルマウスのパネト細胞顆粒のcryptdinおよびcryptdin分泌量についてRP-HPLC、Tris-Tricine SDS-PAGE、Acid Urea-PAGE、westen blot法およびsandwich ELISAで解析・測定して、病理病態進展におけるαディフェンシン異常の関与を明らかにした。さらに、小腸絨毛・陰窩におけるcryptdin、MMP7、CD24等の免疫局在を解析し、幹細胞とPaneth細胞が形成するニッチ相互作用の可能性を示した。以上のように、αディフェンシンの病態関与から、クローン病の新規治療法に繋がる重要な成果を得た。本研究で得られた新知見から、αディフェンシン異常によるdysbiosisがクローン病以外にも多くの疾患に寄与すると考え、実際に移植片対宿主病 (GVHD)における病態関与を証明した。