著者
菱山 淳
出版者
日本簿記学会
雑誌
簿記研究 (ISSN:24341193)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.1-10, 2018-10-31 (Released:2019-04-19)

本稿は,IFRS16 のもとでオンバランスされる使用権資産に焦点をあて,これがどのような性質を持つ資産勘定であるか検討したものである。検討の視座は,リース取引とは何を取得する取引であるかについての二つの視点である。一つは,リース物件という「物」に着目する視点,いま一つは物件の使用権という「権利」に着目する視点である。この二つの視点をよりどころにし,かつ基準で定める借り手と貸し手の会計処理を手掛かりにして検討を行った。検討の結果,使用権資産を認識する前提として特定の資産が存在していなければならないこと,二次測定時には「物」の測定と整合する会計処理が規定されていること,表示では,「物」としての表示が求められていることが確認できた。また,貸し手の会計処理との対応関係の検討から,借り手の使用権資産勘定はリース取引の分類に応じて異なって解釈されることが確認できた。これらの帰結として,「使用権資産」は「権利」としての性質を持ちながらも,「物」として会計処理される面を含む,「物」と「権利」の性質が混在する資産勘定であることを指摘した。