著者
村上 翔一
出版者
日本簿記学会
雑誌
簿記研究 (ISSN:24341193)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.1-10, 2019-04-30 (Released:2019-08-23)

近年,電子マネーを用いた取引は多く行われている。プリペイド型電子マネーは商品券が電子化されたものと理解されていることから,保有者において貯蔵品として処理される。しかし,IT 技術や決済サービスの発展により,単なる財・サービスの提供義務として電子マネーを理解することには疑念が残る。このような背景から,保有する電子マネーを貯蔵品勘定として処理する論拠,諸外国における電子マネーの議論,商品券勘定の理解を踏まえ,保有する電子マネーに対する会計処理を検討する。結論として,保有する電子マネーは現金との類似性があるため,費用性資産として処理する方法を棄却し,販売取引時に生じた営業債権債務を決済する権利義務として理解し,金融商品として会計処理することを私案として提示する。
著者
中溝 晃介
出版者
日本簿記学会
雑誌
簿記研究 (ISSN:24341193)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.1-8, 2020-06-30 (Released:2020-09-04)

本稿は,会計データ分析を行うためには,どのようなデータ形式が良いのかという問いに取り組むものである。近年,AI やビッグデータといった情報技術分野のトピックが,会計分野にも広まってきている。今蓄積しているデータを集計・分析すれば,AI やビッグデータの分析に繋がるのかと言われるとそうではない。複式簿記は紙媒体で行われてきたため,その技術も紙で行うことが前提とされている。しかし,大量のデータをコンピュータで処理するならば,データ形式もそれに適したものにしなければならない。XBRL GL はデータの仕様を予め定めて標準化されたものである。XBRL 形式の仕訳データを作成することで,必要なデータを抽出したり集計したりすることが,他の形式よりも正確に行えるようになる。
著者
菱山 淳
出版者
日本簿記学会
雑誌
簿記研究 (ISSN:24341193)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.1-10, 2018-10-31 (Released:2019-04-19)

本稿は,IFRS16 のもとでオンバランスされる使用権資産に焦点をあて,これがどのような性質を持つ資産勘定であるか検討したものである。検討の視座は,リース取引とは何を取得する取引であるかについての二つの視点である。一つは,リース物件という「物」に着目する視点,いま一つは物件の使用権という「権利」に着目する視点である。この二つの視点をよりどころにし,かつ基準で定める借り手と貸し手の会計処理を手掛かりにして検討を行った。検討の結果,使用権資産を認識する前提として特定の資産が存在していなければならないこと,二次測定時には「物」の測定と整合する会計処理が規定されていること,表示では,「物」としての表示が求められていることが確認できた。また,貸し手の会計処理との対応関係の検討から,借り手の使用権資産勘定はリース取引の分類に応じて異なって解釈されることが確認できた。これらの帰結として,「使用権資産」は「権利」としての性質を持ちながらも,「物」として会計処理される面を含む,「物」と「権利」の性質が混在する資産勘定であることを指摘した。
著者
岡田 幸彦 小池 由美香
出版者
日本簿記学会
雑誌
簿記研究 (ISSN:24341193)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.12-25, 2021-06-30 (Released:2021-08-31)

三式簿記論の基礎理論として,さらには新たな会計理論として期待された井尻雄士教授のMomentum Accountingは,簿記研究や会計研究として新たな分野を確立するような研究の蓄積・発展がなされていないのが現状である。本稿は,1990年代以降にMomentum Accounting研究が蓄積・発展しなかった理由として,井尻理論の史的展開におけるMomentum概念の変化に研究者たちが気づいておらず,本稿で指摘する2つのMomentum概念(Wealth-based MomentumとIncome-based Momentum)が日本語圏と英語圏とで正確に伝わっていない可能性を指摘したい。そしてその背後には,数学的な正しさ,物理学的なもっともらしさ,会計学的な新しさの全てを満たそうとした井尻教授の苦悩があったと推察される。本稿では,Momentum Accounting研究の史的展開をふまえ,その致命的な問題を克服する将来の発展方向として,三式簿記論とMomentum Accountingの新たな世界観を議論・提示する。