著者
菱村 佳子 飯村 しのぶ
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.59, 2016

【目 的】 <br> 2012年「消費者教育推進法」が施行され、この中で学校における消費者教育の推進については、発達段階に応じた体系的・総合的な消費者としての能力の開発が目指されている。とくに中学校では、消費生活についての基礎的・基本的な知識の習得をもとにそれらを消費者の基本的な権利と責任に結びつけ、消費者としての自覚を高めていくことが必要である。本研究では、小学校での学習を基盤にして、中学生の身近な消費行動と関連させながら消費者としての自覚を高められるよう、具体的な場面を設定し実践的な学習を試みた。<br> 【方 法】 <br> (1)2015年12月に札幌市公立中学校2年生4クラス116人を対象として中学生の金銭・消費行動に関する基本的なアンケート調査を実施した。 (2)上記のアンケート調査結果を踏まえて、2016年2月に同様の生徒達を対象に、「商品の選択と購入」の授業として「考えてみよう!&rdquo;読み取り上手は買い物上手&rdquo;~こんにゃくゼリーの場合~」を各クラス1時間ずつ実施した。教材として「マンナンライフの蒟蒻畑 ララクラッシュ」(8個入り160円)の商品パッケージ(両面)を印刷したワークシートを作成し使用した。 授業の展開は、1)個人作業として「売る人の立場になって、この商品のセールスポイントを1つあげよう」、つぎに「買う人の立場になって、この商品の注目するところを1つあげよう」との問いかけをした。つづいてそれらをもとに2)グループ作業として、上記の個人作業の結果について意見交換をさせた。さらに、3)再び個人作業として、「買う人の立場でとくに注意した方がよい商品情報」をあげさせ(複数)、その理由についてもワークシートに記入させた。2)3)を通して発表された意見を教師が黒板に板書する形でまとめ、クラス全体で確認をおこなった。その際、自分以外の意見については、ワークシートに追加記入するよう指示した。最後に<まとめ>として、「あなたの友達がこの商品を買おうとしている時、あなたはどのようなアドバイスをしますか」について考えさせワークシートに記述させた。<br> 【結 果】<br> 生徒が売る側のセールスポイントとして挙げたのは、商品パッケージの表面に書かれている「おなかの調子を整える」(約60%)が最も多かった。一方買う側の注目箇所としては、「価格」(約36%)、「味と内容量」(約24%)、「1個あたりの食物繊維量」(約19%)の順であった。中学生では、栄養効果よりも味に対する期待が上回っていた。この他では期限表示に注目した生徒が約1割あり、この表示は小学校家庭科での学習を通して生徒たちには身近なものとして捉えられていることがわかった。グループでの意見交換と発表の後は、買う側がとくに注意すべき商品情報としてパッケージの裏面にある「食べる際の注意事項」(死亡事故につながるかもしれない、体質によってはおなかの調子が悪くなる)や、「原材料名」(アレルギーへの注意)、「問い合わせ先」(問題が起きた時に必要)など、当初は注目されていなかった表示に目を向ける生徒が多くなった。さらに、消費者にとって本当に必要な情報は、商品パッケージの表面よりも裏面に多く表示があり、しかも小さい文字で書かれていることに気付いた。その結果、<まとめ>のアドバイスとしては商品裏面に記載されている説明文に注目するよう促す内容が多く見られた。 授業後の「学習記録表」に記入された生徒の自己評価によると、「これから買い物をするときには小さい文字もよく見て買うようにしたい」「気をつけて見る必要がある表示がたくさんあって驚いた」「今までは価格と好みだけで選んでいたが、これからはもっと他の表示にも目を向けたい」などの記載が見られ、「生活に生かせる知識・技術」としての授業効果が確認された。<br> &nbsp;