著者
萩原 慎太郎
出版者
福山市立動物園
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2015

昨年度、アジアゾウ1頭の行動の左右対称性を調査し、肢の動かし方、および鼻を巻く方向に左右差がみられたが、鼻では飼料の提示方法等によってその方向に一貫性がないことがわかった。供試個体は形状や提示方法を認知し、鼻の巻き方向を変えていることが考えられた。供試個体が1頭だったことから、本研究では行動の左右差を種レベルで確認するため、国内ゾウ飼育施設を対象にアンケート調査、および複数頭において鼻を使う行動の左右対称性を調査した。また、昨年度の供試個体に異なる飼料提示方法を用いて、鼻を使う行動の左右対称性をさらに調査した。1)国内ゾウ飼育施設36施設、81頭を対象にアンケート調査を実施し、回答率は83%であった。回答した施設の80%がゾウの行動の左右差を知っており、72%の個体で行動の左右差がみられるとの回答を得た。2)落花生を透明円筒内中央に入れて50回提示し、4施設8頭(雄2頭、雌6頭)を供試し、鼻の巻き方向を調査した。左巻きで獲得した個体は5頭(雄1頭、雌4頭)、右巻きで獲得した個体は3頭(雄1頭、雌2頭)で、供試個体全てで鼻の巻方向に左右差がみられたが、その方向に種としての一貫性はなかった。3)雌1頭を供試し、棒状のサトウキビを異なる高さ(4mと0m)で提示した時と、落花生を太さの異なる透明円筒(鼻で直接獲得できる太さ直径11.5cmと獲得できない太さ直径6cm)の中央に入れて提示した時における、鼻の巻き方向を調査した。サトウキビ給餌では高さ4m、0mともに右巻きで獲得し、落花生給餌では直径11.5cm、6cmともに左巻きで獲得した。以上より、国内のアジアゾウにおいて行動の左右差がみられたが、その方向に種レベルでの一貫性はなかった。飼料提示時の高さや太さを変化させ、鼻でつかむ、吸うなどの使用方法を変えた場合でも獲得方向に違いがみられなかった。飼料そのものの違いにより鼻の動かし方を変えている可能性もあり、さらなる検討が必要であると考えられた。