著者
北村 利夫 岩田 隆 落合 利理 福島 忠昭
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.277-285, 1980
被引用文献数
2

リンゴ3品種: 紅玉, 国光, 印度を用いて, 樹上での成熟期間中の呼吸量とエチレン生成量の変化と成熟現象との関係並びに品種間差異を明らかにするために, 成熟期に7日間隔で5~13回収穫し, 呼吸量, エチレン生成量及び組織内エチレン濃度の変化を調べ, これらと各種成熟現象の進展との関係を調べた. 成熟の指標として, 果実重, 可溶性固形物, 滴定酸度, デンプン含量, ペクチン含量及び果肉硬度を測定し, またアミラーゼ及びペクチンメチルエステラーゼ活性の変化も調査した.<br>1. 紅玉と印度は, 樹上での成熟期間中に典型的な呼吸の climacteric rise を示したが, 国光は慣行収穫期までには climacteric rise に至らなかった. 国光でも収穫後20°C貯蔵中には, 明らかな climacteric rise を示し, また慣行収穫期を過ぎて樹上に着生している果実では, 遅くに climacteric rise が認められた.<br>2. 組織内のエチレン濃度は, 紅玉では climacteric rise の開始より2週間前に明らかに増大し, climacteric minimum 時には4ppmに達した. 印度, 国光では climacteric rise 開始のほぼ1ヵ月前より0.3~0.5ppmの範囲で推移し, 印度は呼吸上昇とほぼ同時に増大したが, 国光は climacteric minimum 時こ急増して数ppmに達した.<br>3. エチレン生成は, 紅玉と印度では climacteric rise とほぼ同時に急増したが, 国光では呼吸及び組織内エチレン濃度の増大後も極めてわずかしか増大しなかった.<br>4. 種々の成熟現象の指標の変化と climacteric との関係をみると, 紅玉では成熟現象が急速に進み climacteric minimum 時には可食状態になった. 印度ではデンプンと全ペクチン物質の含量が多く, その分解の速度が遅いので, 呼吸が十分に増大した後に可食状態になった. 国光では成熟現象の進行は緩慢であったが, climacteric の始まるのが大変遅いので, 可食状態になってから約1ヵ月に至って climacteric peak に達した.<br>5. 国光の呼吸量とエチレン生成量は, climacteric の前後を通じ紅玉や印度のそれらと比較して大変少ない. このことと, 国光が他の品種に比べ非常に日持ちのよいことと関係があると思われる.