著者
葉山 アツコ
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
no.129, pp.81-86, 1996-03

伝統的焼畑耕作は森林休閑方式とも呼ばれ,短期作付と長期休閑を組み合わせて森林生態系に調和する形で営まれる農業である。フィリピン,ミンドロ島のハヌノオ・マンヤン族の焼畑農業は,1950年代初めの研究によると陸稲=根栽型,多種の栽培作物に特徴づけられる。当時の平均的な焼畑利用サイクルは12年で,2年の作付期間と10年の休閑期間が置かれていた。焼畑利用植生は成熟二次林であった。現在,休閑期間は4年に短縮され,焼畑利用サイクルは平均6年になっている。利用植生は草本類と木本類が混在する初期段階の二次林である。貨幣経済の浸透は'50年代初めに比べて高くなったが,依然として自給経済の比重は大きい。休閑期間の短縮によって土地利用頻度の集約化が起こったが,それをもたらした要因は,政府認可の大規模放牧地造成によってハヌノオ・マンヤン族の生活領域が囲い込まれたことであり,その結果,土地人口比率が増加したことである。現在の技術水準は'50年代初めと同じであり,土地生産性は労働投入を集約化することによって維持されている。低地社会での労働市場の狭さも相まって,現行の農業システムの継続は,長期的には森林劣化を強める方向に進むであろう。