著者
葭内 ありさ
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.60, 2017

<strong>目的 </strong><br /> 本研究は、高校家庭科において、知的障がい者通所福祉施設と外部連携し、知的障がい者の織ったさおり織を用い、ITを活用した交流を通じて、高校生の障がい者への理解を深め、多様性、ダイバーシティを尊重する視点の育成を試みたものである。 <br /><strong>背景</strong><br /> 2016年4月に「障害者差別解消法」が施行され、障がい者への合理的配慮を求める事が法的にも定められた。障がいの有無、ジェンダー、宗教、民族、人種、性的志向など個人の違いの幅による多様性を生かした共生社会を目指すダイバーシティ教育が一層求められるようになったと言える。一方で、中学迄の義務教育段階と異なり、高校段階では特別学級は設置されていない。義務教育段階でも、必ずしも特別学級との交流が図られている訳ではない中、高校段階に於いては教育の中で意識的に障がい者との交流を図らなければ、障がい者理解の機会を得る事は一層容易くない。<br /> そこで本研究では、対象を必修2年「家庭総合」3クラス120名とし、通常施設との交流に於いて人数や距離に制約のある点を、ITを活用することで克服を試み、必修科目に於いて全員で障がい者施設との交流を図った。特に、魅力的な個性を生かすさおり織を用いることを通じて、障がい者への視点を育むことに着目した。<br /> なお、さをり織は、城みさを氏が考案した、糸の緩さや糸の選び方、編み方において各自の個性を生かし自己を表現する、「差」を織り込む織物である。リサイクルの余糸を繋ぎ合わせたものが織用の糸として用いられているため環境にも優しい。障がい者施設の作業所でも多く取り入られている。<br /><strong>方法</strong><br /> 埼玉県の知的障がい者通所福祉施設と連携した。作業所で織ったさをり織を用いた服を高校生が作り、さらにその服を紹介する動画を班で製作し、福祉施設で上映会を行い、その際インターネットビデオ通話を用いて東京の高校と埼玉の施設を繋ぎ、施設見学や通所の障がい者、施設職員の方々と高校生との双方向の交流を行い、事前事後のアンケート調査と感想の分析を行った。<br /> なお、本研究は、2011年度より実践を重ねる、消費の背景に着目するエシカル・ファッションを用いた、消費者教育の一貫であり、家庭科教育学会において発表済みである(葭内、2014、岡山大学/葭内、2015、鳴門教育大学/葭内、2016、新潟朱鷺メッセ)。2016年度の本研究は、科学研究費奨励研究の助成により行った。<br /> 世界的に厳しい基準のGOTS認証を取得した有機綿花を、日本が誇る高い技術を持つ日本綿布社が織ったオーガニックコットンの布を用いた服をまず製作し、さをり織をアレンジした。動画は製作した服を紹介するのに留まらず、エシカル・ファッションのプロモーションイメージビデオとして製作した。動画は、ユニバーサルデザインを目指し、文字による説明を入れ、グローバル対応として可能な限り英語訳も加えた。10人グループで製作した動画は、クラスで中間発表会を行い、アドバイスを互いにすることで、内容の充実を図った。最終完成作品はクラス発表会を行い、生徒による相互評価やアドバイスを行い、各クラスで優れた動画2本が選ばれ、福祉施設で上映された。また、福祉施設併設のパン工房とカフェで販売されるクッキーをインターネットによる施設見学時に高校生が試食した。<br /><strong>結果</strong><br /> 高校生は、服の製作段階に於いて、さをり織を魅力的に感じ、個性豊かなアレンジの服が完成した。事前調査では、障がい者福祉施設への事前知識がある生徒の方が施設への関心がある割合が高く、知識と施設への関心は相関関係にあることがわかった。高校生の感想からは、通所の障がい者の作業の様子や生徒へのメッセージや感想、自分たちの作った動画への好意的な反応への喜び、その他の双方向の交流により、障がい者への理解を深め、多様性を認め合う共生社会への視点が育まれたことがわかった。
著者
葭内 ありさ 石原 愛子
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.56, 2013

&nbsp; 本実践は、高校家庭科に於いて食領域の学習である配膳の方法を、保育領域の教材制作を用いながら学習し、さらに小学校・幼稚園と学校種を超えた連携授業として試みたものである。<br>&nbsp; 近年、正しい食事の配膳の理解に乏しい生徒が多いことが調理実習時の配膳の様子からも見受けられる。また、和洋中の食器の区別をせずに用いようとする生徒もいる。食生活の文化に関心を持ち、配膳を生活文化として継承していくためには、家庭のみならず学校教育での実践が必要である。このため、本校高校家庭科の授業では、生徒の配膳に対する意識を高め、正しい配膳方法を楽しんで習得するために、絵本制作を用いた実践を行い、その効果を検証した。 <br>&nbsp; 方法は、高校1年次夏から2年次冬にかけての1年間余りにわたって授業実践を行い、その前後に学習内容がどのように定着したか分析した。まず、1年次の生徒の夏休みの課題として、白無地の絵本を配布し、和食の正しい配膳についての絵本制作を行った。その後正しい配膳がどの程度理解できているかを調査した。絵本制作は、家庭科の保育分野の教材として長年扱われており、子どもへの理解を深めるために、布絵本の制作等が行われてきた。しかし、ここでは、特に配膳方法に注目した絵本を制作することで、生徒自身が工夫し考える中での食分野の学習の定着を主眼とした。 <br>&nbsp; さらに、この学習はその後2年次に続く保育分野の学習の導入としても構想した。絵本は、読み手を幼児と設定し、色彩豊かなもの、立体化したもの、くり抜いたもの、マグネットや布、マジックテープを用いたものなど、生徒それぞれの工夫と発想を生かした表現力豊かな作品が出来上がった。 また、絵本という素材をより効果的な授業題材とするために、附属校間の連携した取り組みを行った。附属小学校に依頼し、高校生が制作した絵本を、小学5年生に読んで貰い、それぞれの絵本に感想を書き、高校生へのフィードバックとした。さらに、小学生4人グループで1冊の絵本を、「幼児が興味をもてるか、わかりやすいか」、をポイントに選んで貰った。この試みからは、時に高校生の視点と小学生の視点が異なることがわかった。この際、事前に小学生にも高校生と同様の配膳知識の調査を行ったところ、給食で用いている、主菜副菜兼用皿の盛りつけの影響と見られる配膳方法を提示する児童もおり、給食での配膳指導が児童の知識に影響を与えている様子がわかった。<br>&nbsp;&nbsp; 高校2年次になってから、附属の保育所や幼稚園訪問実習を行う際に、制作した絵本を持参し、5歳児へ絵本の読み聞かせを行った。保育分野の学習の後、経験をふまえて、再度高校生は8人グループで配膳絵本の絵コンテを作成した。ここにおいては、観察した幼児を念頭に置き、配膳が幼児にもわかりやすく、読み聞かせに適した絵本の制作を目指した。この授業は、最初の絵本制作から1年以上が経過している。そこで、再度同じ高校生に配膳方法の定着の調査を行ったところ、約7割弱の生徒が正しい配膳を覚えていた。一方、教師からの座学のみでの配膳方法の学習を行った学年では、学習後3ヶ月経過した時点での調査でも定着率は低かった。<br>&nbsp;&nbsp; このように、絵本制作を通した配膳学習は有効であることが認められた。しかし、絵本制作を行っても1年後に配膳が身についていない生徒も認められる為、家庭での日々の実践の促しや、学校でのさらなる反復学習が必要と思われる。<br>&nbsp;&nbsp; なお、本研究は、お茶の水女子大学附属小学校・高校石原講師との共同研究として実施された。