著者
久保田 珠美 藤井 満由美 末廣 淳 廣瀬 賢明 武智 あかね
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.B2S2027-B2S2027, 2009

【はじめに】重症心身障がい児・者に対しての腹臥位の効果は染谷らが主張しており、当センターでは呼吸機能に問題を有する経管栄養の入所者に対し、数年前から積極的にその導入を試みている.その対象である10名のうち7名が、日中の数時間から睡眠時に腹臥位を導入している.今回、その中でも腹臥位の受け入れがよかった1例と慣れにくかった1例の呼吸機能と胸郭の変形について経時的変化を追ったので報告する.なお、今回の研究では保護者の了解を得ている.<BR>【方法】呼吸機能はSpO<SUB>2</SUB>、胸郭の非対称性は烏口突起から上前腸骨棘までの距離とCobb角で測定した.<BR>【症例】<U>症例1</U>: 6歳女児.インフルエンザ脳症後遺症による四肢麻痺.GMFCSレベル5で喉頭軟化症を認める.胸椎右凸Cobb角21°・胸腰椎左凸Cobb角20°の側彎を呈している.2歳時、上気道喘鳴があり、痰・唾液の量も多かった.座位保持椅子に座らせられないほど常に反り返っていたため、前傾座位から練習した.3歳時での入所に伴い病棟でも股関節を軽度屈曲位の四つ這い様姿勢で過ごすようになった.5歳時より夜間の導入もはじめ、現在一日90分を4回行っている.結果として、呼吸機能ではSpO<SUB>2</SUB>が94%以下に下がる日数は減ったが、胸郭の非対称性は若干の増悪を認めた.<U>症例2</U>:8歳女児.脳性麻痺による痙直型四肢麻痺.GMFCSレベル5.胸椎左凸Cobb角60°・胸腰椎右凸Cobb角58°の側彎を呈している.H19年よりPT場面で四つ這い様の腹臥位の検討を開始したが、感覚の過敏性があることでけいれんの頻発やSpO<SUB>2</SUB>が80%台に下がるなど拒否が強く週2回のPT場面でしか実施できなかった.しかし、下顎の後退に伴う呼吸状態の不安定性を改善するためH20年5月に本人用の腹臥位装置を完成させ2ヶ月間PT場面で使用することでSpO<SUB>2</SUB>が安定してきたため、7月より病棟での使用を開始し、現在一日40分を2回行っている.結果として、呼吸機能ではSpO<SUB>2</SUB>が94%以下に下がる日数が減り、胸郭の非対称性も減少した.<BR>【考察】重症心身障がい児・者にはバリエーションの多い姿勢をとらせることが必要であると考えられるが、腹臥位は窒息などの心配から日常生活の姿勢としては受け入れられにくい.しかし、当センターの活用状況をみると、頭部のコントロールが難しく嚥下や呼吸に課題のある場合には、気道の正中位保持や痰が従重力に排出されるなど、まず健康状態の改善が図れたことで病棟での活用の幅・時間が増えた.同時に腹臥位では、骨盤・下肢の重みからくるねじれが防止でき、本人に適した腹臥位装置で体幹の短縮部を持続的に伸張することで、変形の進行を防止する一手段になると思われる.今後もこの2症例に対し、継続的に経過を追っていきたいと考える.