著者
小川 滋夫 佐藤 昇 藤原 満喜子
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
衛生動物 (ISSN:04247086)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.80-82, 1959-04-05 (Released:2016-09-04)
被引用文献数
5 7

蠅蛆症についての諸外国の報告例中には, 人体外部の皮膚, 鼻腔, 外聴道, 腟, 尿路などに寄生していろいろな局所の障害を起している例があるが, わが国では消化器系蠅蛆症, 特に腸蠅蛆症の報告例が多い(島田1898, 臼杵1907, 本田ら1909, 小林1915, 高木1915, 斎藤ら1918, 武田1921, 佐々木1928, 小宮1953など).しかし, これらはなんらかの自覚症状を訴えて医師を訪ねており, 自覚症状がなく, 何か他の機会に蠅蛆の寄生が発見された報告は少く, 小林(1916)が学童の集団検便で, 中西ら(1936)が鉤虫症患者に入院駆虫を行つて, また岡部ら(1956)が鉤虫の集団駆虫でそれぞれ蠅蛆寄生の1例を認めているのが主な症例のようである.昭和32年8月29日, 著者らは山間の農村部落である新潟県直江津市桑取地区土口部落で224名の鉤虫集団駆除を行つたところ, 自覚症状を訴えない蠅蛆寄生者の3例(1例は蛆20匹を確認, 他の2例は標本の入手に不成功)を発見したので, ここに報告する.桑取地区土口部落は, 日本海岸より約8km離れ, 標高約150m, 山間の零細農家が多く, 衞生状態も悪く, 寄生虫も蔓延しており, ハエなどの発生も他に比べて多い地域である.標本は東京医科歯科大学医動物学教室の金子清俊氏の同定によるもので, ノミバエ科(Phoridae)のMegaselia spiracularis Schmitz, 1938の3令幼虫であることが判つた.