著者
小西 範幸 藤原 華絵
出版者
岡山大学経済学会
雑誌
岡山大学経済学会雑誌 (ISSN:03863069)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.31-61, 2008-06

公正価値測定でのディスクロージャーは,財務報告の利用者にとっては有用性が高い。しかし,個々の会計基準において用いられている公正価値測定の会計処理が異なっているため,それらの比較可能性や信頼性が保たれていない。そのためか,公正価値測定の導入拡大に対して懐疑的な見解が見受けられる。本稿の目的は,国際会計基準審議会(IASB)が2006年11月に公表した討議資料「公正価値測定」1(IASB DP)において収められている公正価値測定に関する予備的見解を分析することにある。この予備的見解は,公正価値測定の首尾一貫した会計上の手続きを行うために,米国の財務会計基準審議会(FASB)が2006年9月に公表した財務会計基準書第157号「公正価値測定」2(SFAS157)を出発点として,換言すれば,叩き台として展開されている。そこで,本稿では,SFAS157との比較によって明らかにした論点を通して,予備的見解の理解を進めていくことにする。SFAS157の公表までには3つのステートメントが公表されていた。それは,2004年6月公表の公開草案「公正価値測定」3(ED),2005年10月公表のワーキングドラフト「公正価値測定」4(05WD),2006年3月公表の改訂ワーキングドラフト「公正価値測定」5(06WD)である。本稿では,これらのSFAS157公表までの過程で変遷していったいくつかの論点を整理し,それら変遷の理由の検討を通して,さらに予備的見解の理解を深めていくことにする。これらの理解は,公正価値測定でのディスクロージャーをどのように拡大していくべきかについての検討の手がかりとなる。