- 著者
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佐藤 静江
藤木 弘美
釘宮 千鶴
倉本 恵子
林 直見
- 出版者
- 日本重症心身障害学会
- 雑誌
- 日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
- 巻号頁・発行日
- vol.42, no.2, pp.210, 2017
はじめに 中途障害児のA氏の母は、異常に気付くのが遅れたことなどで児への自責の念をもっており、泣く・手の振戦・幻覚などの不安症状が見られていた。しかし、不安症状がある中でも家に連れて帰りたいという思いで、医療ケアを習得し外泊することができ、母の不安症状も徐々に軽減していった。 そこで今回、これまでの支援を振り返り、障害受容過程を考察する機会を得たので報告する。 対象 急性脳症後遺症で自発呼吸のないA氏7歳の母。倫理的配慮として、当施設の倫理委員会の承認を得た。 経過 発症3カ月後に入所となり、発症4カ月までは、泣くことも多く「私のせいです」と自分を責める状態であった。反面、「いろいろ教えてほしい」という思いに対し、日常的ケアを一緒に行い、母の言動には聞く姿勢で向き合った。発症5カ月には、抱っこの希望を叶え、本の読み聞かせや手浴など、自ら行うようになっていた。 発症7〜10カ月、笑顔が見られるようになったが話していると泣くこともあった。家に帰りたいという思いを確認し、医療ケアを指導していった。その後も、散歩や行事参加の希望に答えた。 発症15カ月には医療ケアを習得し、外出で自宅に帰ることが出来た。また、同室者の母と楽しそうに話をし、泣くこともなくなっていた。 発症27カ月には念願の外泊ができ「一緒に過ごせたのでよかった」と話した。 考察 入所後、早い段階での前向きな発言から、入所を機に母の心情に変化があったといえた。また、母の思いを聞きケアを一緒に行い、希望が叶っていく中で母の様子も変化していった。母の変化はドロータ−の障害受容の段階説でいう、ショックから徐々に適応に移っていったといえた。ケアを行い、思いが叶うことで、母としてできる子育てを実感し、障害受容の過程を進める契機となったと考えられた。障害受容過程において支援者は、会話を重ね、母の思いを傾聴し、希望に沿った支援を行うことが大切であると考えた。