著者
藤本 優希
出版者
大学美術教育学会
雑誌
美術教育学研究 (ISSN:24332038)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.353-360, 2016 (Released:2017-03-31)
参考文献数
15

ドイツの哲学者M.ブーバー(Martin Buber, 1878–1965)の「教育論」(1916)を手がかりに,知覚されたものと制作者との間の「関係」から,芸術行為の構造を明らかにする。ブーバーの主著「我と汝」(1913)では,〈われ-なんじ〉〈われ-それ〉という二つの「関係」の形式が示される。〈われ-なんじ〉とは,相互承認的な「関係」である。また〈われ-それ〉とは,対象を客観的に観察し利用する「関係」である。いずれの「関係」をもって造形活動にあたるかによって,造形活動がもたらす人間性への影響は異なる。「関係」の概念によって造形活動を論じることは,H.リードにも通じる「芸術による人間教育」という視座を導く。本論では,「関係」の概念を解き明かしながら,「教育論」で示される「創始者本能」と「結びつきの本能」という二つの概念を用い,造形活動の構造を考察することによって,造形活動の人間性への関連を論じることを目的とする。