- 著者
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藤澤 あゆみ
Ayumi Fujisawa
- 雑誌
- 教育学研究論集 (ISSN:21877432)
- 巻号頁・発行日
- vol.4, pp.81-91, 2009-03-31
子どもたちの健康に冠する諸問題の中で,運動不足や食の偏りが原因となっている問題には,近年注目が集まっている。例えば,中央教育審議会の答申や,小学校と中学校の学習指導要領では,主に体力低下や肥満傾向について記載されている。また,食育も重視されている。しかし一方で,運動過多による健康被害が起こっている事実も存在する。それは,子どもの成長発達段階を考慮しない運動のやり過ぎや,体調管理意識不足が原因となっている。そもそも,健康の概念とは,時代や個人によって異なるものである。健康観の変遷は人間の欲求回想の移行が影響しているとされており,最終的に人間は「自己実現」の手段としての健康を手に入れようとする。よって,競技スポーツに取り組む子どもたちにとって,「理想的価値」や「自己肯定感」を感じる「自己実現」の手段であるスポーツが逆に,人間の下位の欲求をなおざりにしてしまうという現実が存在するのである。本研究の調査では,実際,競技スポーツに取り組む子どもたちの中に,体調の優れない子どもや競技中に病院へ搬送された子どもが存在した。今後は,公共性のある教育分野において,自己実現の手段としての運動を極端にやり過ぎたという,運動過多による健康問題を含め,本当の意味での自己実現や,子どもたち自身の体調管理意識についての問題に着目し,研究するといった対応が課題となる。子どもたちが,自己実現の本来の意味を問い直すことで,目標などの将来に向かった到達地点や理念を目指すような理想的価値と,自分の存在価値を見出せるような自己肯定感を生み出し,健康のあり方を見つめ直すことができるような教育を目指す必要があるのではないだろうか。