著者
緒方 正名 藤澤 邦康
出版者
日本海水学会
雑誌
日本海水学会誌 (ISSN:03694550)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.84-94, 1999 (Released:2013-02-19)
参考文献数
33

1) 石油成分の生物モニタリング: 水生生物への移行を調べる生物暴露モニタリング (生物移行モニタリング) と, 石油成分の生物体内での作用を調べる影響モニタリングがある. 生物へ移行する石油成分は, 単環芳香族化合物, 有機硫黄化合物などの石油に特異的に含まれる物質を対象に生物試料による環境モニタリングに適した指標生物を用いて石油の汚染状況をモーするべきである.2) 油臭魚: その発生は, 瀬戸内海等の石油コンビナート付近海域で見られた. 油臭を引き起こす石油成分は, 単環芳香族炭化水素, オレフィン等があげられ, 水島海域では, トルエンを同定している.3) 水生生物影響: 石油流出事故での影響は, 潮間帯の水生生物を中心にみられ, 油が海岸を被覆することよる貝類, 藻類の被害が多く, 次いで甲殻類, その他に鳥類, 哺乳類の被害例が多かった. 影響には, 物理学的影響, 生化学的影響, 病理組織生物学的影響として表れる.4) 毒性と感受性: 石油の種類による毒性は, A重油>原油>廃油>C重油の順に有毒性が高い. 一方, 油に対する生物種の感受性は, 卵・稚仔>甲殻類底生無脊椎動物>魚類>腹足類>二枚貝の順に高い.5) 油処理剤: 現在の乳化分散剤はエステル型であり, 旧型のエーテル型に比べて毒性は低い. 油処理剤混合油の毒性は, 石油単独より強くなる場合がある. 油処理剤の使用は, 現場の状況を適切に判断してから使用するべきである.6) 水島重油流出事故: この事故では, 東部の瀬戸内海を重油で汚染した. 漁業生物への影響は, 養殖ノリ, ワカメ, 養殖ハマチ等のへい死, その他の水生生物は, 珪藻の大増殖, タマキビ等潮間帯生物のへい死が認められた. 魚介類着臭は, 岡山, 香川県下でカレイ等から検出された. 重油除去作業者の健康調査によると, 作業直後に呼吸器症状, 皮膚症状がみられた. また, 精密検査を要する結膜炎, 咽頭炎患者が診断され, 高血圧の者も見いだされた.7) ナホトカ号重油流出事故: この事故では, 船首部分が福井県三国町海岸に漂流座礁した. 漂流重油は, 富山県を除く秋田県より島根県に至る日本海沿岸府県を汚染し, 沿岸の潮間帯生物, 水鳥のへい死が報告された. ナホトカ号から流出した流出油と日本海沿岸各地に漂着した漂着油との比較の結果, 揮発性成分及び低分子の多環芳香族炭化水素類が減少している傾向がみられ, 低分子多環芳香族炭化水素類の蒸発・揮散による減少, 海水中に溶解することによっても減少する事が示唆された. また, 重油除去作業者に健康障害が起こっている事から, 重油除去作業者に対する診療, 同時に健康調査,環境調査が行なわれた. これらに基づき, 安全な回収作業の提言, 健康障害の予防対策の検討を行ない, 医療対策指針を作成した.