著者
藤瀬 礼子
出版者
了德寺大学
雑誌
了德寺大学研究紀要 = The Bulletin of Ryotokuji University (ISSN:18819796)
巻号頁・発行日
no.9, pp.208-202, 2015

蓮月(1791-1877)は小澤蘆庵(1723-1801)の歌を学んだ.彼の提唱した「ただごと歌」は,まさに蓮月の平明な歌に影響している.蓮月は蘆庵の歌を暗記し,消息でそれを示しているほどである.かなり深くその歌論についても心に留めている様子が窺える.蘆庵の「ただごと歌」とは,そもそもは紀貫之が『古今和歌集』仮名序において提唱した歌論の一つである.この「ただごと歌」の言葉を自らの歌論の柱として,二条派の伝統集団に抗うように,自論を展開したのが小澤蘆庵であった.蘆庵は,当時の国学者らが古今調を退け,万葉調を重んじた説に反し,あえて古今に依拠した「ただごと歌」をその主軸し据えた.ただ言葉数を合わせて並べたのでは歌として成立しない.それが,時には散文のように身近でありながら,歌の風情を失わないのは,蓮月の歌の基礎に『古今集』などがあり,さらに当時において,歌の姿のありようを蘆庵の提唱する「ただごと歌」に求めているからにほからない.