著者
藤田 素子 小池 文人
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.728, 2005 (Released:2005-03-17)

都市の森林における,窒素(N)及びリン(P)の鳥類の排泄物によるランドスケープ内への輸送について報告する。動物(主に魚類及びそれを採餌する哺乳類、魚食性鳥類)によるランドスケープ間の物質の移動が注目されているが、鳥類は都市およびその近郊においても栄養塩の移動をもたらしていると予想される。横浜市の6つの孤立林内に5m2のメッシュシートを数個設置し、落下した鳥糞を数日後に回収し、C%、N%、P%を測定した。更に、加入する栄養塩の起源を推定するために、NとPの構成比や安定同位体比δ15N及びδ13Cを季節・場所ごとに比較した。森林に加入したP(0-11.8kg/ha/ yr)を他の主な経路と比較すると、風化によるもの(0.05-1.0kg/ha/yr)や降水起源(0.2-0.9kg/ha/yr)よりも有意に大きく、都市林に生息する鳥類、特にねぐらをつくるカラス類の貢献度が高いことが明らかになった。秋にはCが多くNPの少ない植物質の糞が多く、夏にはNの多い昆虫質の糞であった。越冬期にはPが多く、特にカラスのねぐらとなる常緑樹林ではδ15Nが最も高かった(平均4.89)ため、哺乳類・鳥類などの動物質の餌を食べていると予想された。δ15Nは落葉樹林の鳥糞で最も低い値(平均0.62)を示しため、より植物食の鳥が多かったと考えられる。繁殖期の鳥類はテリトリーをもつため、採餌する昆虫由来の栄養塩は数百m以内から運搬されたことが予想される。一方で越冬期には、カラスはねぐらから8km以上離れた餌場への移動が確認されているなど、その採食範囲は広くなっていると考えられる。カラス類によりゴミ由来の栄養塩が都市林に運ばれている可能性もある。