著者
藤野 洋輔 福本 浩之
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 通信ソサイエティマガジン (ISSN:21860661)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.284-297, 2022 (Released:2022-03-01)
参考文献数
20

水中での通信には,吸収減衰が少なく,海水の濁りや太陽光の干渉等の影響を受けない音響通信が一般的に利用されている.しかし,音波の伝搬速度は電波と比べて5桁以上遅いことから,遅延広がり,ドップラー広がりが共に桁違いに大きい二重選択性フェージングが発生し,その伝搬路変動の克服が課題である.一般的に通信の高速化には高周波数帯を利用した広帯域伝送が有効であるが,高い周波数を利用した際により顕著となる高速な伝搬路変動に追従可能な波形等化技術が確立されていなかったため,水中音響通信の高速化には限界があった.近年,高周波数帯利用時に発生する高速な伝搬路変動の克服を目指し,マルチパス波の一部を空間領域で抑圧することで遅延広がり,ドップラー広がりを圧縮する時空間等化技術が提案されている.本論文では,時空間等化技術を解説するとともに,その動作原理や伝搬路変動への耐性を確認するための計算機シミュレーション,伝送実験について紹介する.