著者
藤高 一郎
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会ソサイエティ大会講演論文集
巻号頁・発行日
vol.1997, 1997-08-13
被引用文献数
2

ディジタル回路もアナログ回路も共に電子回路ではある。大学は近年アナログよリディジタル教育に重点を置いてきたように見える。さらに言えばディジタル技術の中のソフトウェアの学習に偏っていると思える。回路の学習というと、CADツールをコンピュータ上で動かして、シミュレーションを行い、回路動作の確認をするような仮想体験だけやってきました、という新入社員がたくさんいる。忘れてならない事は、仮想体験では理論と思考の正解、不正解は分かっても、現実の世界の繊妙さは全く体験できないという事である。これは丁度、近年問題になっている、コンピュータゲームで自分の世界を作った人間の変質犯罪と、類似の世界と言えるだろう。 どうしてこんな形の教育が増えてしまったのだろうか? 一つには、コンピュータ上で設計をシミュレーションをする方法が、指導が簡単で費用もかからず、また検証も容易な事から、大学として楽である、ということだろう。第二には、偏差値教育の結果、入学する学生が、以前から電子工学が好きだった訳でもないのに、周囲の評判と経歴作りの目的だけで電子工学を専攻する傾向があるように思われる。電子工学科卒業と胸をはって入社した社員が、半田付けのやり方が分かりませんと言ってくる実態には絶望感を抱く。今の大学の先生方は、自分の育てた学生が、うまくいけば一生半田付けができなくても、会社の中で一流の電子工学技術者として、自信を持って働けると思っているのだろうか?