著者
蘇徳斯琴
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.3-14, 2016 (Released:2016-09-15)
参考文献数
19

本研究の目的は,内モンゴル自治区における生態環境に留意し,草原地域における定住化政策や農地開発といった土地利用政策を持続可能な開発の視点から再検討することである。「遊牧方式」による牧畜業は,歴史的な知恵が蓄積された伝統的な生業であった。しかし,「遊牧方式」を根本的に否定した定住化放牧を中心とする草地利用政策の実施は,草原地域の生態環境に適合するものではなかったため草地劣化の一因となっている。また,莫大な人口を抱える中国は,農地確保が食料安全保障の観点から常に重要課題となってきた。そのため,内陸部の乾燥・半乾燥地域に位置する内モンゴル自治区においても農地開発が進められてきた。ところが,自然条件を考慮しない農地開発は,農地としての利用に適さなかったばかりか草地にも還元することが不可能なほどに生態環境を悪化させている。草地劣化や草原開墾は,当該地域の土地利用の持続性や国内の食料確保にほとんど貢献できなかったことを示す現象であると言ってよい。以上から,今後の土地利用政策は,持続可能な開発の視点から科学的見地を最大限に活用した環境保全と食料安全保障の両立を追求すべきであると考える。