著者
遠藤 匡俊
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.61, no.1, pp.19-37, 2009 (Released:2011-12-08)
参考文献数
55
被引用文献数
2 1

集団の空間的流動性は,おもに移動性の高い狩猟採集社会で確認されてきたが,移動性の程度と集団の空間的流動性の程度の関係が必ずしも明確ではなかった。本研究では,定住性が高いアイヌを事例に,定住性の程度と流動性の程度の関係を分析した。1856∼1869年の東蝦夷地三石場所におけるアイヌの27集落を対象として集落の存続期間を求めた結果,最低1年間,最高14年間,平均4.4年間であった。全期間中に消滅した集落は18,新たに形成された集落は14,そして14年間ずっと存続し続けた集落は3であった。分裂の流動性が高い集落(S<0.82)および結合の流動性が高い集落(J<0.79)は,いずれも集落の存続期間の長さには関わりなく多くみられた。このように,集落の空間的流動性の程度は集落の存続期間の長さとは関係しなかった。消滅した集落の分裂の流動性は存続し続けた集落よりも低く,新たに形成された集落の結合の流動性も存続し続けた集落よりも流動性が高いという傾向はとくに認められなかった。この結果は,アイヌのように移動性の低い狩猟採集社会だけでなく,移動性の高い狩猟採集社会においても,移動性の程度と流動性の程度はあまり関係がなかったことを示唆する。
著者
佐々木 明彦 苅谷 愛彦
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, pp.283-294, 2000-12-31 (Released:2010-04-30)
参考文献数
26
被引用文献数
3 4

三国山地平標山の亜高山帯斜面に分布する泥炭質土層の生成開始期を検討するために, 48地点で土層断面を調査した。その結果, 鬼界アカホヤ (7,200cal y BP), 浅間平標山第3 (6,600cal y BP), 妙高赤倉 (6,600cal y BP), および浅間平標山第2 (6,300cal y BP) などの完新世中期のテフラを挟む泥炭質土層が斜面の随所に分布することが明らかとなった。テフラの年代と分布深度から見積もられる泥炭質土層の平均堆積速度から, 各試坑における泥炭質土層の生成開始年代を推定すると, 早いところで9,000cal y BP頃, 一般には8,000~7,000cal y BPであることが判明した。これは, 他の日本海側多雪山地における泥炭質土層の一般的な生成開始年代と調和的である。一方, 完新世後半に生成し始めた泥炭質土層も存在するとみられるが, その分布は化石残雪凹地の中心部のごく狭い領域に限られる。
著者
横尾 実
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.17-34, 2000-03-01 (Released:2010-04-30)
参考文献数
45

ここで言う都市の地域構造の移行とは, 江戸時代の城下町構造を旧構造, 現代の都市構造を新構造と区別した時, 時間的経過とともに旧構造が崩壊し, 新構造が成立していく過程を指す。その移行形態を実証するため, 江戸時代から第2次世界大戦期における東北地方の城下町起源11都市を事例にあげた。都市地域の形成過程を個別に復原した著者による先行研究に基づき, 帰納的立場から, 江戸時代, 明治前期, および明治後半から戦前期までの3時期における都市構造をモデル化した。都市地域構造の移行形態は明治後半以降,都市間で異なっている。それを旧構造残存型, 旧構造修正型, 新旧構造競合型, 新旧構造併存型, そして新構造誘導型の5つに整理した。これら5つの型相互間の関係から比較的単純な構造移行の順序系列が得られ, それは近代産業発展による影響を強く受けなかった東北地方の都市の性格を反映する。
著者
米地 文夫
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.267-284, 1995-12-15 (Released:2010-04-30)
参考文献数
38
被引用文献数
4

明確な地名としての「東北」の初出を, 岩本 (1989など) は慶応4年7月の木戸孝允の建議書をその初現であるとし, 難波 (1993) は同年閏4月から太政官日記にみられるとしたが, 筆者は同年正月の久保田 (秋田) 藩主への内勅や, 2月の仙台藩主からの建白書に, 「東北」の語があることを見いだした。岩本は「東北」を「東夷北秋」を約めたもので, 勝者が敗者に押し付けた地名とした。しかし「東夷北秋」の略は「夷秋」で, 当時は欧米を意味していた。また朝廷側が味方の秋田藩を「東北の雄鎮」と呼んだり, 奥羽側でも自らをも含めて「東北列藩」と呼んだりしており,「東北」に蔑視的な意味は無かった。この「東北」は, 東海, 東山, 北陸の三道全体, すなわち東日本の意味で, 現東北6~7県地域を指すものではなかった。明治初年のこの広義の「東北」は当時の歴史教科書にはみられるが, 地理教科書にはほとんど登場しなかった。
著者
磯田 弦
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.70, no.3, pp.127-133, 2018 (Released:2018-10-10)
参考文献数
6
著者
三浦 修
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.71, no.3, pp.120-127, 2019 (Released:2020-07-18)
参考文献数
38
被引用文献数
1
著者
田中 健作 井上 学
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.91-103, 2017 (Released:2017-08-12)
参考文献数
17

本稿では,バス路線運営における自治体間関係の特質を見出すために,中心集落規模の異なる中部地方の名張市周辺ならびに栄村周辺の2地域を事例に,山村の県際バス路線の運営枠組みを検討した。両地域ともに,周辺山村側の自治体や集落では,経済的機能や地形条件といった地理的な制約の下で受益を最大化させるために,生活圏や行政域に対応した領域横断的な交通サービスの設定を目指した。その際には県際バス路線に対する広域的な視点よりも,地域の中心周辺関係と行政域によって形成された利害関係が影響しているため,周辺性が高く財政力の弱い自治体ほど財政負担を増大させていた。自治体間のバス路線の運営枠組みは,地理的条件に基づく利害関係の差異によって,周辺性の高い山村側の負担や制約が大きくなる構造にあるといえる。
著者
植 遥一朗 櫛引 素夫
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.164-177, 2021 (Released:2022-01-14)
参考文献数
11
被引用文献数
1

本稿は,東日本大震災の発生当時,新幹線と高速道路という高速交通機関同士にみられた「補完関係」を明らかにするとともに,復旧した新幹線と高速道路が,復興期にどのような動向を示したのか検討することを目的とする。東日本大震災では,阪神・淡路大震災や中越地震と比べて非常に広い地域が被災した。東北新幹線は被災の規模にしては早く復旧したものの,全線運転再開に49日間を要し,通常ダイヤへの復旧には半年かかった。高速道路は震災発生直後,「命の道」としての役割を果たし,「くしの歯作戦」により発災1日後には南北軸の復旧がなされた。続く1週間程度の期間,高速道路を利用した高速バス,航空機が新幹線を代替する「補完関係」が見られた。復興期においては,東北新幹線は輸送人員が増加し,また,高速道路は震災を契機として全国的に整備が加速して,被災地の新幹線と高速道路は「復興のシンボル」とみなされた。ただ,新幹線と高速道路が被災地の復興に寄与した詳細なプロセスについては今後,あらためて検討していく必要がある。
著者
高木 亨
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.121-136, 2005-10-31 (Released:2010-04-30)
参考文献数
26
被引用文献数
1 1

本研究は, 醤油醸造業者の存立要因の一つとして消費者の醤油嗜好の地域性を想定し, 醤油の生産統計をもとに, 醤油生産の地域的な特徴について考察した。醤油の二大産地は千葉県と兵庫県であり, 千葉県産が関東地方で, 兵庫県産が関西地方で圧倒的なシェアを占めている。しかし, それらの周辺地域ではあまり高いシェアを占めてはいない。全国で広く生産されている醤油は,「濃口」,「本醸造」,「特級」であるが, その生産方式は一様ではなく, 同じ「濃口」でも東北, 北陸, 中国, 九州の各地方では「新式醸造」と「アミノ酸液混合」が多いなどの地域差がみとめられる。これは, 消費者の醤油嗜好の地域的差異の表れと考えられる。醤油の生産と流通の特徴を整理すると, 各都道府県は (1) 県内産醤油の割合が高い「県内産醤油優位型」, (2) 県内産醤油と県外産醤油との割合がほぼ等しい「県内・県外均衡型」, (3) 県外産醤油の割合が高い「県外産醤油依存型」の3つに大別できる。以上の検討から, 醤油嗜好の地域性の一端を明らかにすることができた。
著者
滕 媛媛
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.73, no.4, pp.250-263, 2022 (Released:2022-03-05)
参考文献数
41
被引用文献数
6

新型コロナウイルス感染症の流行は,地域の人口動態にも大きな影響を与えており,地方移住が促進される転換点となる可能性に注目が集まっている。本研究では,東京都に居住する独身若年層を対象としたアンケート調査を実施し,コロナ禍が彼ら彼女らの移住意識に与えた影響について検討した。調査の結果,コロナ禍をきっかけとして16.6%の回答者に移住意識が生じており,その規定要因は新型コロナの流行前のものとは異なっていた。コロナ禍をきっかけとして移住意識が生じた人は,高収入,正規雇用者であり,移住先として大都市圏を志向しやすいという特徴がある。その一方で,低学歴・収入減少・不安感のある人も移住意識をもちやすい傾向があった。これらの結果は,コロナ禍における移住意識を誘発するメカニズムが,その社会経済的地位によって異なることを示唆している。ポスト・コロナ時代の移住促進政策では,コロナ禍をきっかけとして新たに生じた潜在的移住者の特徴を考慮すると同時に,社会格差や居住格差の拡大に留意する必要がある。
著者
佐藤 寛輝 張 思遠 本多 一貴 佐藤 颯哉 吉田 国光
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1, pp.3-15, 2023 (Released:2023-04-21)
参考文献数
31

本稿は,埼玉県行田市で毎週日曜日に開催されている「行田はちまんマルシェ」を事例にマルシェという空間の利用が,出店者の経済活動や日常生活にいかなる役割を果たしているのかを明らかにした。マルシェへ農作物や飲食物,工芸品などを出品する出店者が,各人の生産活動もしくは日常生活のなかで,マルシェでの直売という行為をどのように位置づけながら利用し,出店者にとっていかなる経験を生み出しているのかを分析した。そして,マルシェという空間の利用を通じて得られた経験,もしくはマルシェでの直売活動によって他所で得られた経験が生産者の経済活動や日常生活にいかなる役割を果たすのかを考察した。その結果,マルシェ自体は出店者にとって経済的機能を期待する空間とはなっていなかったが,出店者の出店を通じて様々なスケールで得た経験が常設店舗や他所の出店先での経済活動には直接的,間接的にポジティブに作用していた。この作用は経済規模として小さいものの,出店者のマルシェでの活動を媒介して中心市街地を超えた行田市という広い範囲に及んでいた。マルシェは開催を主導した自治体からみると商品を販売するイベントであった。他方,マルシェという空間を主に利用する出店者にとっては市場的価値を期待するものではなく,出店者のマルシェで得た経験は出店者が行田市各所で経済活動を展開させる際にポジティブに作用するものであった。
著者
佐川 大輔 中谷 友樹
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.107-121, 2020 (Released:2020-09-24)
参考文献数
16
被引用文献数
4 4

道路網の整備による自動車交通へのシフトや人口減少を背景とした利用者数の減少等により,鉄道路線の廃止が地方を中心に継続して生じている。現存する鉄道路線においても,鉄道事業者から廃止を提案されている事例が存在するなど,この先,維持が困難となる鉄道路線の数は増えていくものと考えられる。こうした鉄道廃止の提案に対し,「鉄道が無くなると街が寂れる」という意見が挙げられることもあるが,この考えを否定する意見もまた存在する。 本研究は,鉄道路線の廃止が鉄道沿線自治体の人口と所得水準に及ぼす影響を,パネルデータ解析のための回帰分析を用いて明らかにした。鉄道沿線自治体の廃線以前の状況を考慮する統計モデルを使用した分析の結果,先行研究で指摘されている鉄道の廃止が起こった地域で観察される高い人口減少率は,廃線以前からの状況を反映しているものであり鉄道の廃止によって引き起こされたものとは判断し難いことが示唆された。また,鉄道の廃止が所得変化率に及ぼす影響についても,廃止路線沿線と現存路線沿線の自治体間で統計学的に有意な違いは認められなかった。
著者
米地 文夫
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.188-191, 1996-08-30 (Released:2010-04-30)
参考文献数
13
著者
遠藤 匡俊
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.155-175, 2015 (Released:2015-08-01)
参考文献数
68
被引用文献数
1

1822(文政5)年の有珠山噴火によって火砕流・火砕サージが発生し,多数の人々が死亡した。しかし,具体的な死因や被災地点の噴火口からの距離と熱傷程度との関係は必ずしも明らかではなかった。本研究では,史料に記された被災者の熱傷に関する記述を用いて熱傷の深度,重症度,救命率などを推定した。推定にあたっては1991(平成3)年の雲仙普賢岳の噴火による被災例を参考にした。その結果,火砕流・火砕サージに遭遇して死亡した人々の熱傷の深度は,主にIII度熱傷(皮下熱傷)であった。熱傷の重症度は主に重症熱傷であり,現代であれば熱傷専門施設での入院加療を必要とされるほどであり,それでも救命率は30%以下のレベルに相当していた。死亡者の多くは顔面に強いIII度熱傷を負っており,高度の気道熱傷も生じていた可能性が高い。一方,火砕流・火砕サージに襲われてもすぐに海に逃れて生存した2名は,頭から首にかけてII度熱傷(真皮熱傷)を負った。これは軽症熱傷に相当し,現代の基準によれば外来通院でよい程度であった。被災地点が噴火口から遠くなるほど被災者の熱傷の程度はより弱くなる距離減衰性が見いだされた。
著者
米地 文夫
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.167-170, 2001-09-01 (Released:2010-04-30)
参考文献数
19
被引用文献数
1