著者
衣斐 督和
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.173-176, 2018 (Released:2019-11-01)
参考文献数
9

精神疾患の発症および進展には,遺伝的要因と環境要因による分子異常がかかわることから,その病態解明は非常に困難である。近年,精神疾患の病態への活性酸素種(ROS)の関与が示唆されているが,その産生源および標的分子とその制御機構は明らかとなっていない。本稿では,うつ様行動発現におけるROS産生酵素NOX1/NADPHオキシダーゼの役割を検証した。その結果,社会敗北ストレスの曝露またはコルチコステロン(CORT)の慢性投与により引き起こされるうつ様行動がNox1遺伝子欠損マウス(Nox1-KO)で減弱した。NOX1がかかわるうつ様行動発現には中脳皮質神経回路がかかわることを見いだした。さらに,NOX1由来ROSの標的分子がNMDA受容体サブユニットNR1であり,NR1の酸化修飾によるBDNF発現減少がうつ様行動の発現に寄与することが示唆された。