著者
袖川 芳之
出版者
経済社会学会
雑誌
経済社会学会年報 (ISSN:09183116)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.11-24, 2016 (Released:2021-04-01)

経済社会の中で消費は明確な位置づけを持たず、デフレの状況の中でもどのように需要を増やせばよいかわからない。そこで、需要がどのように生まれてくるのかその源泉を検討し、消費の普遍的な本質を定義することで消費の未来の姿を提示する試みをおこなった。 人々を消費へと駆り立てるドライブは「欲求」と「欲望」に分けられる。「欲求」の消費は欠乏の充足として捉えられるが、「欲望」は心の中の未分化なエネルギーであり、本人もそれが何であるか意識していない、「何か欲しいが、何が欲しいかわからない」という心理状況である。これが豊かな時代の消費のドライブになっているので、企業も消費者も何を提供して何を買えばよいのかわからなくなっていることがデフレにつながっている。 そこで「欲望」が消費につながるしくみを検討すると、「欲望」という未分化なエネルギーが社会という外部環境からの刺激によって明確化し消費行動を行う。そして、その行動を他人からの賛同によって評価され初めて自身の消費満足となる。 また、消費のドライブには「満足を急ぐ欲望」と「満足を引きのばす欲望」があり、特に後者の欲望は、消費には時間の概念が重要であることを示している。 未分化なエネルギーとしての「欲望」や「満足を引きのばす欲望」が出てくる源泉自体は脳の機能にあると考える。脳がインパクトのある情報を求めるという機能が未分化なエネルギーとして蓄積され、「何か」を求める「欲望」になる。「何か」は何でもよく、脳にインパクトのある情報を与えることができれば十分なのである。この過程で、生産と消費、仕事と趣味の境目がなくなり、消費を過度に生活や人生の中心に置きすぎていた戦後の消費者は消費で人生の満足を得ようとする人から、「仕事を楽しむ新しい階級」からなる「新・産業社会」へと変化していく。それに伴って消費概念が拡張され、何かを買わねばならないかという不安から人々は解放されていくのである。 以上の考察から、消費に時間と他人の存在という2つの要素を入れて消費満足が生れるプロセスを考えると、消費満足が個人内部で完結することではなく、個人を取り巻く外部環境としての社会の器の大きさや社会の質が個人の消費満足を決定することになる。 需要がどこからくるのか、消費とは何かを明らかにしながら、需要を創造するためには社会全体の質を高めることという、視点の転換を促すものである。