著者
上田 晶美
出版者
嘉悦大学
雑誌
嘉悦大学研究論集 (ISSN:02883376)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.137-151, 2012-03

本稿では、公的機関の行なっている以下の代表的な3つの大学生の就職率調査について検討する。1「大学等卒業予定者の就職内定状況調査」(厚生労働省・文部科学省)、2「学校基本調査」(文部科学省)、3 各都道府県労働局の就職率である。1については厚生労働省担当者に直接疑問点を尋ね、聞き取り調査を行った。世の中に官民併せ多くの就職率調査がある中で、これらの3つの調査を選び研究することとした理由は、国や都道府県の行うものとして信頼度が高く、新聞紙上などでもひときわ大きく扱われ、国民への影響力が大きいだけでなく、国の就職対策の予算の根拠となっているものが含まれているからである。 大学生の就職の現状は、1990年代のバブル崩壊後、長期間にわたって厳しい状況が続いており、我々、大学教育現場にいるものにとって、憂慮すべき課題となっている。若年者の就職難は大学だけにとどまらない大きな社会問題であり、教育現場だけで解決できるものではなく、これまで以上に官民一体となった就職支援対策を講じることが必要であると思われる。そのためには、根拠となる「現状の把握」が不可欠であり、大学生の就職率を正確に調査することが大前提になる。ところが、本稿でとりあげるこの3つの調査は、国の調査という信頼度の高いものにも関わらず、また、同じ省庁が関与しているというのに、一見したところ調査結果の数字は大きく食い違うものとなっている。調査対象の選び方やいわゆる「就職率」の計算方法、特に調査ごとに計算式の分母がそろっていないことが主たる要因であると推定できる。本稿では、これらの調査を有効活用できるものにするために、それぞれの調査の調査対象の選び方や「就職率」の計算方法の特徴を検討した上で、大学生の就職支援対策にとってより有効な調査とするための改善策を提案する。
著者
白鳥 成彦 田尻 慎太郎 宇田川 拓雄
出版者
嘉悦大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究では、大学における学生の退学を防止する為に行う教育施策の意思決定を支援することを目的として、日々変化し蓄積していく学生データと共に学内外で学生と接している人々 (保護者、友人等)に関するデータを組み込んだ中退予測モデルを構築する。これまでの中退予測研究では学生データの活用に主がおかれ、保護者や友人といった学内外者との関係やその影響をいれることは少なかった。本研究では学内外の学生をとりまく環境や人間関係の影響を考慮にいれた中退予測モデルを作成し、学生の人間関係が中退するまでの学生行動にどのような影響を及ぼすのかを明らかにすることで、大学が行う中退防止施策に客観的な示唆を与えることを試みる。
著者
井口 浩一
出版者
嘉悦大学
雑誌
嘉悦大学研究論集 (ISSN:02883376)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.93-101, 2001-12-21

この世は、生命の創造ということによって成立している。したがって、常に新しい。その創造から祝福をもって遣わされた存在白身が、言霊や文字であると言っていい。このことから、彼らの役割は、徹底して、創造に参与することにおかれているに相違ない。その、永遠の経過が、瞬間ごとの事実というふうになっているとみて、誤まりはないであろう。私達は、かかる事実に、(言霊や文字を通じて)、素直にそえば、そこに、いやでも幸福は招来されずにはいないはずである。私達の親も、言霊や文字と同じ、創造にあるからである。事実を事実とすること、(自己白身を愛すること)、そういう生活を実践すること、つまり表現するということ、そのことが、私達の生命の唯一の使命なのではなかろうか?-歌を唄う、ということは、そういう営みを言う言葉として継がれてきているように思う。ここから、歌を、美しく唄うことが、誰にも大切なこととして登場してくる、と、私は考えている。しかし、現代のわが国は、かかる、事実を事実とする生活から、よほど離れてしまっているとしなければなるまい。多くの不調和の原因は、この反事実、反歌唄性に由来している、とみなしていい。言霊にかえること・文字そのものの古里を訪ねること、つまり、日本語で歌を美しく唄うという、私達のありのままの素直さが、現在、私達には天来の声として響いてきていると私には思われるのである。
著者
高野 秀之
出版者
嘉悦大学
雑誌
嘉悦大学研究論集 (ISSN:02883376)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.77-99, 2009-10

本稿は、平成20 年度嘉悦大学特別研究『認知言語学を理論基盤とした文法教育の研究』の第1章として共同研究者に提供した、言語学史の概要部分を加筆・修正したものである。その中で、筆者は認知言語学を最新の言語観として位置づけ、言語学の歴史において、その要請はことばに関する哲学的な議論の当然の帰結であると主張している。近代以降の言語学史において、最新の言語理論というものは、直前の言語観をアンチテーゼとして成立したものであるという見方が、一応、共通の認識になっている。しかし、それでは言語研究の歴史の中で展開されてきた言語観の変遷は不問に付され、最新の言語観と直前のそれとの差異ばかりが過剰なまでに強調されているような印象を受ける。理論言語学の目的は、最新の言語理論がどれだけ言語一般の特性を表すものであるかを共時的に検証するとともに、そこに至るまでの言語観の変遷を通時的に実証することにある。ことばをどのように扱うのかという問題は、ある言語理論がどれだけ多くの言語に対応するものであるかを論じるだけではなく、それぞれの時代において言語学者がどのような視座に立ち、何を取捨選択してきたのかを振り返ることによって初めて明らかにされるものである。今回の取り組みが、哲学者や思想(史)家から浅薄なものであるという指摘を受けることになったとしても、それは次の言語理論を創出する過程においては、必要不可欠な作業であると考える。言語学者自身が言語観の変遷を振り返ることにより、言語学は更なる発展を遂げるのである。
著者
安田 利枝
出版者
嘉悦大学
雑誌
嘉悦大学研究論集 (ISSN:02883376)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.117-143, 2008-04-30
被引用文献数
1

LTD(話し合い学習法)に基づくテキストの「読み」には、主として次の学習効果が認められる。(1)個々人の充実感と学習意欲の向上(2)言語スキルやコミュニケーション・スキルの向上(3)学習スキルの獲得(4)論理的・批判的志向スキルの向上(5)対人関係スキルの発達と仲間意識の変化・改善アメリカで確立されたこの学習法は、学習者の先行経験や既有知識と思考スキルを活用して「知識の構造化」を意図する点で、認知心理学の知見と親和性を持っている。批判的思考を含む高度な読み書き能力を身につける上で有効かつ魅力的な学習法であり、大学における導入教育でもっと実践されてよい手法である。なぜなら、学習階梯が明示されていることで学習者にとって取り組みやすい、学習者の既有知識を活性化させるとともに新たな知識との関連付けをすることにより、学習者が新たな知識を学んだという実感を持つことができる、さらに、学習者が学びを楽しみ仲間を作ることが出来るなどの利点があるからである。通常の講義型授業においても、学生の「知識の構造化」を意図した授業者の発問、そして学生同士の交流による「知識の構造化」のための時間を組み込むという形で、LTDの基礎にある学習理論を活用することができるであろう。
著者
髙野 秀之
出版者
嘉悦大学
雑誌
嘉悦大学研究論集 = Kaetsu University research review (ISSN:02883376)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.87-106, 2013-10

本稿は機能主義言語学の入門研究である。ここで言う「機能主義」とは、Saussureが築き上げたヨーロッパ構造主義言語学の伝統における「一つの研究動向」のことを意味している。彼の後継者の業績の中から、特に、言語使用の目的、その目的が果たされる場面、言語使用の場面や状況において発現する意味(即ち、機能)に関心を寄せるものを選び、それらが言語体系の構造を記述するという目的を果たすために、どのような手段(方法)を講じているのかを概観する。 言語学という特定領域の歴史において、対立しているかのようにも見える二つの研究動向(即ち、構造主義と機能主義)がどのように扱われてきたのかを見直すことは、言語学史の研究のみならず、最新の言語理論を理解するうえでも有意義なことである。 本研究が扱う業績は、「コミュニケーション理論」、「場の脈絡という概念」、そして、言語学の主たる目的を意味の研究として定め、「意味はコンテクストの中で機能するという言語観」に限られる。それらはみな、行き過ぎた客観主義への反省に基づいて、「目的-手段」というモデルを共有している。
著者
白鳥 成彦 田島 悠史 田尻 慎太郎
出版者
嘉悦大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

本研究の目的は日々変化し蓄積していく学生データと大学における教学データを確率的に関連付けたモデルを構築し、大学生の退学を防止する為に行う教育サービスの意思決定を支援することである。平成29年度は平成28年度に作成した学生モデルの再構築と教学サービスとの統合、さらに学会等における成果の発表を行った。(1)学生モデルの再構築では平成28年度に行った一次成果の報告におけるフィードバックを経て学生モデルの再構築を行った。具体的には中退に関連する変数を2群:入学時の変数と入学後の変数に分け、その統合によって学生の状態を推測していくモデルにした。結果としてマクロ的な変数のみで動的な動きを表現できなかった前年度のモデルに対して、学期ごとの動きを表現することができるようになり、より中退までの具体的な動きを扱うことができるようになった。次に(2)学生モデルを用いて教学サービスとの統合を行った。具体的には作成した学生モデルを教職員に公開し、その学生ごとに適した形の教学サービスはどのようなものかを考えるワークショップを5回行った。学生モデルから出される中退・卒業までのパターンごとに適切な教学サービスにどのようなものがあるのかを導出した。学生パターンごとに教員が行うサービス、職員が行うサービス、カウンセラーが行うサービスに分け、それぞれのタイプごとにいつ、どのサービスを行うことが適切なのかを導出した。最後に(3)以上の学生モデル、教学サービスの統合部分を学会発表論文としてまとめ、発表を行った。
著者
嘉悦 康太
出版者
嘉悦大学
雑誌
嘉悦大学研究論集 (ISSN:02883376)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.51-75, 2009-10-01

戦後の高等教育は昭和22(1947)年制定の教育基本法および学校教育法に基づいて新制大学制度が発足し、2 年後の昭和24(1949)年私立学校法が制定されたのを期に本格的に行政が開始された(『文部科学白書(平成15 年度版)』より)。高度成長期には、高等専門学校の発足(昭和37(1962)年)や短大の恒常化(昭和39(1964)年)、専修学校の制度化(昭和51(1976)年)など、増え続ける高等教育進学者の受け皿として、結果的に戦後における高等教育の枠組みを完成させる一連の政策実行がなされた。平成3(1991)年の大学設置基準の大綱化以降はいわゆる大学改革が全国で進み、18 歳人口の減少と相まって、大学間競争が激化した。その後、私立学校法の一部改正(平成16(2004)年)、教育基本法(平成18(2006))及び学校教育法(平成19(2007)年、最終改正)が改正されるなど、21 世紀に入って戦後の高等教育を取り巻く環境は一変した。本稿では、終戦直後まで遡り、各年代別に戦後日本の高等教育にまつわる文科行政及び、教育分野全般の行政改革と規制緩和の状況を概観することで、高等教育を巡る今日的問題を考察する際の「座標軸」を提供することを目的としている。教育関係の法令や規則及び文部科学行政に関する政府関係書類等、すでに公になっている公文書をテキストにした文献解題に基づく政策のディスコース分析を主たる方法論とする。
著者
安田 利枝
出版者
嘉悦大学
雑誌
嘉悦大学研究論集 (ISSN:02883376)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.33-50, 2012-03-20

合理的かつ総合的なエネルギー政策の検討のためには、熟議をなし得る法制度上の「公共空間」の構築が欠かせない。原子力政策をめぐる現行法制度上の「公共空間」の実情と課題をこれまでの諸研究のレビューにより確認し、原子力政策にかかわる「公共空間」が極めて貧弱である理由を探った。相次ぐ電力会社の不祥事や監督官庁等の失態から、地元住民の間では地方政府への期待が高まり、一般市民の間ではエネルギー政策の選択肢を求める声が大きくなっている。にもかかわらず、むしろそれ故に、原子力発電の推進を国策としてきた中央政府と専門家は、住民、市民の合理的判断能力や科学的思考の欠如という「素人像」を前提として、行政官僚こそが専門科学者との協同により合理的な政策を決定できる、国民はこれを理解し受容すべきであるという、意思決定にかかわる政策信念に固執してきた。このことがパブリックコメントの機能不全、公開ヒアリングの形骸化、環境影響評価の未成熟、円卓会議と市民参加懇談会の変質と退行などを生んだ要因の一つであるとの仮説を導いた。
著者
和泉 徹彦
出版者
嘉悦大学
雑誌
嘉悦大学研究論集 (ISSN:02883376)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.15-39, 2010-03-18

2009 年に世界で大流行した新型インフルエンザは豚インフルエンザ由来のH1N1 ウイルスであった。事後的に季節性インフルエンザと比較して毒性が高くなかったことが判明したものの、致死性の高い新型インフルエンザを想定して策定された即応計画に基づいた対応がとられた。即応計画は市民の生命安全と社会経済活動の継続を目的として策定されていた。時間の経過とともに社会経済活動に大きな影響を与える措置が見送られた。日本では当初、地域全体の集団感染防止を目的とした休校措置等がとられたが、その後は学校単位での学級閉鎖・学年閉鎖といった対応に改められた。イギリスではかかりつけ医(GP)制度があるため、抗インフルエンザ薬投与が有効な48 時間以内の受診が困難である。そのため、「国家新型インフルエンザサービス」を稼働させて医療機関の受診無く抗インフルエンザ薬を入手可能なルートが開設された。ワクチン接種開始は想定通り約6 ヶ月を要しており、それまでに非薬物的な手段での感染防止が重要である。つまり、新型インフルエンザが認知されてからワクチン接種まで感染のピークを遅らせるような対策が求められる。
著者
遠藤 ひとみ
出版者
嘉悦大学
雑誌
嘉悦大学研究論集 (ISSN:02883376)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.39-60, 2007-10-31

本論分では、情報技術を比較的に進化させている、グーグルについて取り上げる。グーグルは、最も注目すべきグローバル企業の一つである。その事業内容は多岐に渡り、ウェブ検索を始め、ブック検索、グーグルアース、インターネット広告など、ウェブ検索以外のサービスやソフトも続々と提供している。そして、そのサービス内容の多くは、斬新なアイデアで、メディアからの注目も非常に高い。このように多様なサービスを提供し、企業価値を高めているグーグルの強さの一つには、本社と現地法人に共通する組織文化にあると考えられる。そこで、本論分では、従業員の能力を最大限に発揮できる組織文化と経営革新について検討していく。
著者
和泉 徹彦
出版者
嘉悦大学
雑誌
嘉悦大学研究論集 (ISSN:02883376)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.19-34, 2011-10-26

大学改革の文脈に沿ったキャンパス内通貨を構想するとき、それは国民通貨に対して「弱いお金」である地域通貨と同類の目標設定や課題克服を迫られることになる。学生個人がコミュニケーション力やキャリア形成につながる能力開発を支援する役割が期待されるが、流通形態・手段の設計次第で何度も繰り返し使われる複数回流通が可能にもなるし、大学から学生への一方通行にもなる。大学における3つの先行事例を研究することで、その得失を明らかにする。嘉悦大学において正課活動及び正課外活動を支援するためのキャンパス内通貨を導入する試案を検討する。様々な条件を考慮した上で、学生証に内蔵されたICカードをカギとするサーバ型の流通手段が望ましい。地域通貨が死蔵・退蔵されるのでは導入する意味が失われてしまうので、複数回流通させ流通速度を高める設計が重要である。学生個人がポイントをためるだけではなく学生団体・プロジェクトに寄付して活動に参加する、さらには地域商店街とも連携してスケールを拡大していくという将来を描く。大学内では既に予算化されている学生アルバイトや報奨金制度、そして学友会予算等を組み替えることでキャンパス内通貨の原資は確保可能である。
著者
高野 恵亮
出版者
嘉悦大学
雑誌
嘉悦大学研究論集 (ISSN:02883376)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.61-73, 2007-10-31

本稿は野党期自民党の議員立法を分析対象としている。自民党は1955年の結党以来、1993年から1994年の一時期を乃増手政権の座にあり、「野党期」といわれる時期は極めて短い。それにもかかわらず敢えてこの時期の議員立法を研究対象とするのは、官僚機構の協力を得られにくくなる野党の立場としての、いうなれば「素のままの」自民党の政策形成能力を測りたいがためである。政策形成に関する議論においては戦後から長期の間、官僚主導論が占めていたが、1980年代後半からは逆に、政官関係でいうところの「政」の側、特に自民党の政策形成能力の再評価、すなわち自民党の長期一党支配の中で「族議員」と呼ばれる特定の政策分野に精通した議員が出現し、従来官僚主導と言われた政策形成の場面において、それらをしのぐ能力を発揮しているという議論が出てきている。しかしながら、野党期自民党の議員立法、そして自民党を離党した「族議員」の野党所属期における議員立法を検討すると、自民党がそうした能力を持ち合わせているかということに対しては疑問が生じる。そこには常々「責任政党」を標榜してやまない自民党の「素のままの」政策形成能力が現われていると言っても過言ではない。
著者
古閑 博美
出版者
嘉悦大学
雑誌
嘉悦大学研究論集 (ISSN:02883376)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.63-73, 2005-10-31

学生の授業中の私語、着帽、睡眠、携帯電話の操作、飲食、化粧、教科書・ノート・筆記具の不携帯のほか、トイレや電話のための途中退室などが問題となっている。そういった態度に接し、教師はどのように対すればよいのであろうか。教育現場で、このことに悩む教師の姿がある。社会で礼儀・作法は不可欠であり、教育現場で、無作法な態度や傍若無人な振舞いが看過されてよいわけはないのである。大学は躾教育まで担っていない、との考えは排除したいものとなる。知識の教養と行動の教養を身につけた学生を育成するのは、社会のニーズでもある。教師は、教育現場にふさわしい辞儀と魅力行動を実践したい。授業中、飲食、私語、着帽などの学生がいても、注意もせず放置する教師を、心ある学生は評価していない。学生が、知的教養以外にマナーなど行動の教養を身につけることは、彼らの将来にとって重要というだけでなく、わが国の将来と直結する課題となる。魅力行動学という研究分野を、あえて唱える所以である。
著者
高野 秀之
出版者
嘉悦大学
雑誌
嘉悦大学研究論集 (ISSN:02883376)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.47-73, 2010-10-25

本稿は、ソシュールの一般言語学理論を再考することを通じて、言語研究の歴史における、その評価の妥当性を問い直すものである。 言語研究の歴史において、ソシュールはさまざまな批判にさらされてきたが、その中には、ソシュールの思想や学説への不理解や誤った歴史認識に基づいたものもある。そうした誤解を払拭するために、ソシュールの思想や学説を可能な限り忠実に再現した後、ソシュールに向けられた批判の型を『一般言語学講義』の成立事情に基づくもの、ソシュールの言語理論自体に関するもの、歴史認識にかかわるものの3 種類に分類し、それぞれを検証することを通じて正当な評価を下すことを試みる。 筆者は、人間の知的活動としての理論構築というものが、対立や批判からのみもたらされるとは考えない。それは、既存の理論や学説と相互に関連し合いながら、視点の位置と適用範囲の変遷によって刷新されてゆくものである。その視点と適用範囲とが時間の経過とともに増加・累積し、洗練されてゆく過程が言語研究の対象であるとするソシュールは、批判の対象ではない。それは、言語研究の対象と方法とを示しながら、それを自らの手で一冊の本にまとめることを躊躇したこと、ただ一点においてのみであると考える。
著者
高野 秀之
出版者
嘉悦大学
雑誌
嘉悦大学研究論集 (ISSN:02883376)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.3-38, 2012-10-26

本稿の目的は、生成文法の基本原理を検証し、その理論的な基盤となる言語観を探求することにある。しかし、取り上げられる基本原理と、それぞれを基に記述される言語現象は、質・量ともに、決して十分なものとは言えない。したがって、この取り組みは、生成文法の全容解明ではなく、この理論がどのように言語の本質を捉えようとしているのかを追体験し、そこに想定されている言語観を合理的に導き出そうとする入門研究である。生成文法は、経験科学の方法で言語の本質を解明しようとする言語理論で、観察可能な言語資料から導き出された事実に基づいて仮説をたてる。実証研究の過程において、期待された解が得られなかったとしても、仮説を簡単に放棄したりはしない。その結果は、理論構築に至る過程が厳正であったために導き出されたものとして受け入れ、仮説の修正を繰り返し、より洗練された理論を目指す。問題の棚上げという対応が批判の対象になることもあるが、現在、生成文法は言語の本質解明に最も近い言語理論の一つであると言えよう。巻末の資料は、生成文法の基本原理が英語の疑問文を生成する過程を説明するのに効果的であると主張し、研究の公共性を担保している。
著者
柴生田 俊一
出版者
嘉悦大学
雑誌
嘉悦大学研究論集 (ISSN:02883376)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.31-67, 2004-12-31

21世紀の国家デザインの一環として、観光立国政策が推進されているが、その経済政策としての根拠は必ずしも十分とはいえない。観光サテライト勘定は、経済分析や政策評価のツールとして、世界各国で導入されつつあり、将来、日本においてもかなり有用なツールになるものと期待される。観光立国政策では「訪日観光を世界に開く」と謳っているが、近隣アジア諸国に対する一方的な旅行ビザ制限にみられるように、日本は国際観光交流の面では立ち遅れている。
著者
小林 憲夫
出版者
嘉悦大学
雑誌
嘉悦大学研究論集 (ISSN:02883376)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.107-122, 2006-04-30

本来の意味をそれほど深く理解していないにもかかわらず安易に使用している言葉はたくさんあるが、映画を評するときにしばしば用いられる「B級映画」という表現もそのひとつであろう。この表現は多くの場合、「安っぽい映画」、「くだらない映画」、「いまいちの映画」、「駄作」など低い評価を表わすために用いられるが、その定義は人によって異なり、事実上かなり曖昧に使われている。本論文は、「B級映画」の語源はどこにあるのか、そしてこの用語は本来どのような場合に用いられてきたのかを考察する。映画は19世紀末にフランスで発明されたが、現代に見るような大規模なエンターテインメントとして発展してきたのはアメリカ合衆国である。「B級」という表現は、その米国における映画製作の工程から生まれてきた。本論文における「B級映画」は、米国での映画の誕生からハリウッドの歴史を追い、第二次世界大戦後のテレビ時代を迎えるまでを辿っている。これにより「B級」映画の成立事情と変遷を述べ、「B級」映画がどのように時代とともに変化してきたかを明らかにしている。
著者
小菅 成一
出版者
嘉悦大学
雑誌
嘉悦大学研究論集 (ISSN:02883376)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.1-19, 2007-04-30

商法では、客の来集を目的とする人的・物的設備を備えて、公衆の需要に応ずる取引を行う場屋営業者(ホテル、映画館等を営業する商人).は、客の携帯品について、(1)客から寄託を受けたにもかかわらず、場屋営業者が当該携帯品を滅失または毀損した場合には、それが不可抗力により生じたことを証明しない限り、損害賠償責任を免れることができないと規定(商法594条1項)し、さらに、(2)客が寄託をしない物品であっても、場屋中に携帯した物品が、場屋営業者またはその使用人の不注意により滅失または毀損した場合には、場屋営業者は損害賠償責任を負うと規定(同条2項)している。この場屋営業者の責任めぐる裁判例は、これまであまり多く見られなかったが、ここ最近では、ゴルフ場のクラブハウス内における貴重品ロッカーからの窃盗犯による財物の盗難とキャッシュカードの不正使用に関する事件が多発したことから、被害に遭った客が、ゴルフ場に対して場屋営業者としての責任を追及する訴訟が増えてきているという。そして、こうした裁判例の中には、まず貴重品ロッカーに携帯品を保管したことにつき、客と場屋営業者との間に寄託契約が成立するのか否かを検討し、その結果、寄託契約が成立しなくても、場屋営業者側に、貴重品ロッカー等の施設内の管理に不注意があった場合には、当該営業者に対し、商法594条2項に基づく善管注意義務違反を認めるものも出現してきている。本稿では、場屋営業者の責任に関する商法594条の規定の趣旨を確認した上で、当該規定に関する近時の裁判例を検討しつつ、場屋営業者には、例え客との間に寄託契約が成立しなくても、客が安心して携帯品を貴重品ロッカー等に預けられるようにするための施設に対する安全管理義務があると結論付けている。