著者
樋口 悠子 高橋 努 笹林 大樹 西山 志満子 鈴木 道雄
出版者
日本精神保健・予防学会
雑誌
予防精神医学 (ISSN:24334499)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.87-96, 2021 (Released:2021-12-01)
参考文献数
25

自閉スペクトラム症 (autism spectrum disorder; ASD) に統合失調症が併存する割合については様々な報告があるが、ASDでは統合失調症に類似した症状がみられることがあり、時に鑑別が困難な症例を経験する。われわれは神経発達症を背景に精神病発症リスク状態を経て統合失調症を発症した症例を経験したので報告する。症例は10代男性。乳幼児期に発達の遅れがみられ、4歳時に小児科でASD、注意欠陥多動症の特性を指摘され小学4年まで同小児科に通院した。小学5年時より、考えが人に見透かされている感じや盗聴されている感じなどが出現した。成績低下や不登校に加え、不潔恐怖や希死念慮もみられ、中学2年時に当院を受診し、精神病発症リスク状態の基準を満たした。間もなく自生思考や持続性の幻覚妄想が生じ、統合失調症と診断された。精神病症状の顕在化に先立ち測定したmismatch negativity (MMN)では、持続長MMN(duration MMN; dMMN) の振幅低下と周波数MMN (frequency MMN; fMMN)の潜時延長を認めた。各々統合失調症とASDの特徴を表しており、本患者の疾患素因の反映と考えられた。MMNは統合失調症の生物学的マーカーとして早期診断への応用が期待されているが、本症例の結果より、MMNがASD症例における統合失調症の併存リスク評価にも有用である可能性が示唆された。
著者
樋口 悠子 住吉 太幹 立野 貴大 中島 英 西山 志満子 高橋 努 鈴木 道雄
出版者
一般社団法人 日本臨床神経生理学会
雑誌
臨床神経生理学 (ISSN:13457101)
巻号頁・発行日
vol.48, no.6, pp.650-655, 2020-12-01 (Released:2020-12-14)
参考文献数
21

ミスマッチ陰性電位 (MMN; mismatch negativity) の振幅は統合失調症などの精神病性障害およびその発症リスクが高い状態 (ARMS; at-risk mental state) で低下していることが報告されている。我々は初発, 慢性期統合失調症およびARMSの患者において持続長MMN (duration MMN; dMMN) を測定した。その結果, 初発, 慢性期統合失調症でdMMNおよびそれに引き続いて出現するreorienting negativity (RON) の振幅低下が見られた。更に, ARMSで後に統合失調症に移行した群については, 非移行群に比べdMMN振幅が有意に低かった。近年MMNの機能的転帰を予測するツールとしての応用について検討する報告も増えてきており, MMNはARMSの転帰予測因子としての期待が高まっている。