- 著者
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西山 恭子
- 出版者
- 福島県立医科大学
- 雑誌
- 奨励研究
- 巻号頁・発行日
- 2010
真菌感染症の診断・治療を行ううえで病原菌の分離・同定は基本となるステップである。しかし、真菌は(1)培養しても発育しない。(2)発育までに時間がかかる。(3)特徴的な形態の発育がないと同定できない。など様々な問題がある。そこで本研究は真菌を培養せずに、DNA解析によって迅速に診断する技術を開発することを目的とした。検体は造血幹細胞移植後、発熱した患者の血液98サンプルを用いた。DNAの抽出については(1)、既存のDNA抽出キットを使用する方法。(2)、(1)のキットを使用前に超音波と酵素を使用する方法。(3)、化学的・物理的に細胞を破砕し、磁性シリカにてDNAを抽出する方法。(4)血液を化学的・物理的細胞破砕を行った後、DNAをフェノール・クロロホルム法により抽出する方法。(5)市販の検体処理剤を用いた方法など様々な方法を検討した。1番良好な結果をみとめたのは(3)の磁性シリカによる抽出であり、その方法でDNA抽出を開始した。しかし、その後磁性シリカにDNAの混入がみられ途中から(2)の方法で実施した。真菌の定量はITS2領域をターゲットにしたユニバーサルプライマーを用いてReal-time PCR(SYBR Green法)を行った。菌種同定はReal-time PCRで得られた増幅産物をT-cloning法でPCR産物をクローニングし、各検体3コロニーずつシークエンスを決定し、相同性検索によって菌種の同定を行った。98サンプル中16サンプル(16%)で増幅がみとめられた。値は4.7~58.4 copies/μlであった。1コロニーでも同定できたのは14サンプルで酵母用真菌が6菌種、糸状菌が3菌種であった。その中で特に多い菌種はTrichosporon sp.で次に多いのがCandida glabrata と Candida parapsilosisだった。敗血症の起因菌として多く報告されているCandida albicansは1サンプルから検出されたのみだった。今回検討したサンプルからは定量値が低いことより、起因菌か常在菌叢かの判断はできないが通常検出される真菌の菌種とは異なっており培養法とあわせたより詳細な検討が必要と思われた。また、市販のDNA抽出キットやPCR関連試薬には細菌・真菌のDNAのコンタミが見られることがあり、PCR感度を上げることが難しかった。この点において企業に対しDNA free資材の必要性を要望した。