著者
西岡 正義
出版者
大阪健康福祉短期大学
雑誌
創発 : 大阪健康福祉短期大学紀要 (ISSN:13481576)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.11-20, 2004-03-25
被引用文献数
1 1

少子化が進む一方で、「団塊の世代」が高齢期を迎えようとしており、わが国で社会保障の財源をどのように確保するのかが差し迫った問題になっている。保険制度による社会保障では、若年層を中心とする意識の変化や生活苦もあって、国民年金などの保険料未納者が急増し、制度そのものの存続が危ぶまれている。生活保護などの公的扶助では、対象者をきびしく選別するためにミーンズ・テスト (資力評価) を強化しているので、行政指導の厳しさを避けるために、生活に困窮しても申請を見送る例も少なくないし、受給者になってもスティグマを伴う結果となる場合も多い。「無条件にすべての個人に給付される社会手当て」という考え方がベーシック・インカム構想で、これまでの公的扶助や保険制度による社会保障を転換させようとする構想である。従来の社会保障や社会福祉で支給されていた給付を、すべてベーシック・インカムに一元化して、ナショナル・ミニマムとしての最低限所得保障をしょうとすることが、この構想の根源になっている。財源については、すべての所得に課税することを前提にしているが、当然、現行より所得税が大幅に引き上げられるし、高額所得者には特にきびしい制度になっている。ベーシック・インカム構想は、ヨーロッパを中心に研究が進められている。しかし、わが国にとっても、これからの国民生活を守るための重要な示唆を含んだ構想だと思われる。ベーシック・インカムとはなにか、実際にわが国で適用できる構想か、などについて考えてみたい。