著者
播本 雅津子
出版者
大阪健康福祉短期大学
雑誌
創発 : 大阪健康福祉短期大学紀要 (ISSN:13481576)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.56-59, 2004-03-25
被引用文献数
3

人口動態統計から、家庭内における不慮の事故のうち、「不慮の溺死及び溺水」の内訳分類の「浴槽内での溺死及び溺水」に着目した。浴槽内溺死の8割以上を高齢者が占めており、その原因に、日本の入浴習慣である、高温浴・全身浴と、浴室が寒いという住宅環境があることがわかった。浴槽内溺死は元気な高齢者の急死として起こっており、安全な入浴方法について注意喚起されているものの現時点でその取り組みは万全とはいえない状態である。今後、元気な高齢者の入浴習慣の変容や住宅環境の改善を望み、浴槽内溺死の減少を期待する。
著者
川口 啓子
出版者
大阪健康福祉短期大学
雑誌
創発 : 大阪健康福祉短期大学紀要 (ISSN:13481576)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.93-102, 2007-03-05

日本赤十字社は、第一次世界大戦直後から次の戦時準備を行った。1922(大正11)年「戦時救護規則」、「救護員任用規則」、「救護員召集規則」を改正し、第二次世界大戦には、かつてない規模の従軍看護婦の養成、派遣が可能となった。日中戦争、太平洋戦争と事態が進むにつれて、日赤以外からも従軍看護婦を募り養成し、あるいは短期間の速成看護婦も従軍させることになった。結果は、大きな犠牲を生むこととなった。戦争終結後も、彼女らには安住はなかった。中国大陸の従軍看護婦は、逃避行、捕虜生活の末、なかなか帰国できなかった。内地では、朝鮮戦争勃発と同時に再び従軍看護婦が召集された。日本国憲法に違反するこの行為は、当時も今も、ほとんど国民には知らされていない。そして、従軍看護婦のその後の生活には、なんらの戦後補償もなかったのである。
著者
柴本 枝美
出版者
大阪健康福祉短期大学
雑誌
創発 : 大阪健康福祉短期大学紀要 (ISSN:13481576)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.35-51, 2008-03

山本宣治(1889-1929)は、1920年代に同志社大学予科において「人生生物学」と名づけた性教育を実践していた人物である。山本の性教育論で、科学的知識とは、性生活調査に基づいて一般の人々における現状の性生活を知ることから確立されるものであった。すなわち、山本の性教育論にとって性生活調査は、性教育における知識内容の種類と質を吟味する役割を果たすものであった。したがって、山本の性教育論において性生活調査は必要不可欠な要素であるということが明らかになった。そのうえで、山本は再構築された科学を一般の人々に還元しなければならないと考えていた。その方法の一つが、「人生生物学」講義であった。このように、山本が従兄弟の安田徳太郎(1898-1983)とともに実施した性生活調査は、「人生生物学」講義の受講生の反応を見るために始めたアンケートがきっかけとなって始められ、そして、その調査から得た結果を「人生生物学」講義を通じて、学生に還元していたといえるだろう。このように、性生活調査と「人生生物学」講義に始まる山本の性教育実践とは、双方向的に関わりあっていたことがわかった。
著者
坂本 毅啓
出版者
大阪健康福祉短期大学
雑誌
創発 : 大阪健康福祉短期大学紀要 (ISSN:13481576)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.77-92, 2009-03

介護の現場において起きている介護職員の不足と、将来必要とされる介護職員の確保は、現在の介護保障制度において重要な課題となっている。本論では厚生労働省による『「社会福祉事業に委従事する者の確保を図るための措置に関する基本的な指針」の見直しについて』と総務省による『介護保険事業等に関する行政評価・監視<評価・監視結果に基づく勧告>』を基にして、介護職員の不足問題を整理し、現状とその背景を分析した上で、将来必要とされる人材の確保が難しい見通しを示した。それをふまえて、労働経済学を用いて介護職における労働供給曲線と労働需要曲線を導きだし、現在の労働市場の均衡を示した。それにより、介護職員を増やすためには民間企業と同様に賃金の引き上げが必要であることを明らかにした。またそのためには介護事業所における事業収入を増やすことが必要であると指摘した。そして事業収入を増やしつつ、あわせて平等消費型介護保障制度を維持するには、介護報酬を引き上げることが不可避であると明らかにした。それに伴う国民の負担増については、介護保険料の定額制から定率制への移行、収入分の使途を社会保障に限定した消費税率の引き上げによって行うことを提案した。
著者
西岡 正義
出版者
大阪健康福祉短期大学
雑誌
創発 : 大阪健康福祉短期大学紀要 (ISSN:13481576)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.11-20, 2004-03-25
被引用文献数
1 1

少子化が進む一方で、「団塊の世代」が高齢期を迎えようとしており、わが国で社会保障の財源をどのように確保するのかが差し迫った問題になっている。保険制度による社会保障では、若年層を中心とする意識の変化や生活苦もあって、国民年金などの保険料未納者が急増し、制度そのものの存続が危ぶまれている。生活保護などの公的扶助では、対象者をきびしく選別するためにミーンズ・テスト (資力評価) を強化しているので、行政指導の厳しさを避けるために、生活に困窮しても申請を見送る例も少なくないし、受給者になってもスティグマを伴う結果となる場合も多い。「無条件にすべての個人に給付される社会手当て」という考え方がベーシック・インカム構想で、これまでの公的扶助や保険制度による社会保障を転換させようとする構想である。従来の社会保障や社会福祉で支給されていた給付を、すべてベーシック・インカムに一元化して、ナショナル・ミニマムとしての最低限所得保障をしょうとすることが、この構想の根源になっている。財源については、すべての所得に課税することを前提にしているが、当然、現行より所得税が大幅に引き上げられるし、高額所得者には特にきびしい制度になっている。ベーシック・インカム構想は、ヨーロッパを中心に研究が進められている。しかし、わが国にとっても、これからの国民生活を守るための重要な示唆を含んだ構想だと思われる。ベーシック・インカムとはなにか、実際にわが国で適用できる構想か、などについて考えてみたい。
著者
鴻上 圭太
出版者
大阪健康福祉短期大学
雑誌
創発 (ISSN:13481576)
巻号頁・発行日
no.7, pp.175-183, 2008-03

急速な高齢社会を歩んでいる日本社会において、介護専門職による介護の質が問われている。介護現場では介護専門職に低賃金、長時間労働などの厳しい労働条件が課せられ、専門性とは何かを現場から問い続けることが非常に困難な状況にある。その様な状況で「生活とリハビリ研究所」主宰者、三好春樹が発信する介護方法論に関する講座やセミナー、著書が多くの介護専門職から支持されている。三好は「当たり前の生活を当たり前に行うこと、ここに介護の専門性があるのだ」と論ずる。また三好は、医療の分野で起こった「病気を見て人を見ず」といったひずみが介護に持ち込まれたと批判、介護においても問題行動や障害を見て人を見ていないと主張している。当たり前の感覚で当たり前の生活行動への援助方法を論じている。しかし、三好の論理は介護の専門性としての普遍性や援助の継続性が無く、介護の専門職としての責任を果たすべきものにはなっていない。介護専門職の専門性とは、科学に裏付けられた継続性のある方法論をもって介護を通して社会に責任を持つことである。
著者
黒田 治夫
出版者
大阪健康福祉短期大学
雑誌
創発 : 大阪健康福祉短期大学紀要 (ISSN:13481576)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.87-92, 2007-03-05

日本における「新自由主義」の動きを、4期に分ける。その第1期を、「1980年代の中曽根内閣と臨時行革路線」とする。第4期の「小泉内閣と日本的『新自由主義』の展開」が本格化している今日、第1期のイデオロギーを、この「新自由主義」の動きの中であらためて検討してみる。「新自由主義」のイデオロギーとして、第1期のイデオロギーをとらえなおすと、中曽根「新国家主義」のイデオロギーは、「新京都学派」の「日本文化論」にみられるように、「新自由主義」の市場万能論や競争主義の強調ではない。そうではなく、市場万能論や競争主義を隠ぺいするために、梅原猛の「和」や山崎正「柔らかい個人主義」や今西錦司の「平和に共存」して「棲(す)み分け」が強調されている。ゆえに、第1期のイデオロギーは、「新自由主義」のイデオロギーとしては、まだ、成熟していないといえる。
著者
古川 利通
出版者
大阪健康福祉短期大学
雑誌
創発 (ISSN:13481576)
巻号頁・発行日
no.8, pp.43-52, 2009-03

明治初年から開始された神仏判然政策は、古代から現代にいたる国民の宗教生活には本質的な影響を及ぼさず、一種の"エピソード"と位置付けられているが、明治の政治神学すなわち近代「祭祀」国家の創造と近代天皇制的「神聖さ」にとっては不可欠な重要な意義を有していた。それは、仏教や神道などの「教団」の在り方に決定的な影響を与えたのみならず、明治近代国家の精神的「機軸」である天皇制を支える皇室祭祀、神社の再編と創建、氏子政策、「大教」政策などを左右した規律であって、国家的虚構である「神社非宗教」システムを生みだすための前提条件であった。
著者
川口 啓子
出版者
大阪健康福祉短期大学
雑誌
創発 : 大阪健康福祉短期大学紀要 (ISSN:13481576)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.69-76, 2006-03-25

従軍看護婦が海外戦地に派遣された足跡は、日露戦争における救護活動の国際的評価が高かったことを出発点とし、戦時救護規則を改正したことに始まった。平時に戦時準備を行うこと、病院船救護員をすべて女性にすること、全国から救護看護婦(従軍看護婦)を募ることである。女性が従軍看護婦として、国内でも病院船でも活動できるということの社会的認知を得た後には、海外戦地での活動が課題となった。日赤は、政府・軍部の意向を受け、慎重な議論をしながら、海外戦地に従軍看護婦を派遣した。ドイツ領青島及び欧州ロシア・フランス・イギリスでの傷病兵救護である。この時には、殉職者も出さず、戦闘に巻き込まれることもなく、再び、従軍看護婦はその力量を大いに発揮し、国内外からの高い評価を得ることになった。こうした日赤従軍看護婦の実績は、陸軍看護婦、一般看護婦にも従軍志願の道を開き、兵士に次いで従軍看護婦が戦争参加グループの最大多数となる基盤を築いた。