- 著者
-
石橋 正
西川 弘之
釆 輝昭
中村 洋
- 出版者
- 公益社団法人 日本薬理学会
- 雑誌
- 日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
- 巻号頁・発行日
- vol.132, no.6, pp.351-360, 2008 (Released:2008-12-12)
- 参考文献数
- 30
- 被引用文献数
-
10
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ブロナンセリン(ロナセン®)は大日本住友製薬株式会社で創製された新規抗精神病薬であり,ドパミンD2およびセロトニン5-HT2A受容体に対する強い遮断作用により抗精神病作用を発現する.リスペリドンやオランザピンといった第二世代抗精神病薬の多くはセロトニン5-HT2A受容体結合親和性がドパミンD2受容体より高いが,ブロナンセリンでは逆にドパミンD2受容体結合親和性がセロトニン5-HT2A受容体よりも高く,ドパミン-セロトニンアンタゴニストと呼ぶべき特徴を持っている.また,アドレナリンα1,ヒスタミンH1,ムスカリン性アセチルコリンM1など,他の受容体への結合親和性は低いことから,ブロナンセリンは極めてシンプルな受容体結合特性を有する新しいタイプの第二世代抗精神病薬といえる.更に,各種動物試験より,本薬が第二世代抗精神病薬の特長といえる「臨床用量での精神症状改善効果と副作用の分離」を示すと考えられた.臨床試験ではハロペリドールとリスペリドンのそれぞれを対照とした2つの国内二重盲検比較試験を実施し,いずれの試験でも精神症状改善効果の対照薬に対する非劣性が検証され,特に陰性症状の改善効果はハロペリドールより高かった.また,有害事象や副作用の発現割合では,ハロペリドールより錐体外路系症状や過度鎮静が,リスペリドンより高プロラクチン血症,体重増加,食欲亢進,起立性低血圧が少なかった.長期投与試験でも効果は維持され,目立った遅発性有害事象の発現はなかった.これらのことより,ブロナンセリンの持つドパミン-セロトニンアンタゴニストと呼ぶべき特徴と選択性の高い極めてシンプルな受容体結合特性は,医療現場で有効性と安全性のバランスがとれた高い治療有用性を発揮し,統合失調症の急性期から慢性期まで幅広く使用できるfirst-line drugに位置付けられることが期待される.