著者
西田 光一
出版者
山口県立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

2018年度は次の2本の論文を発表した。(1) An anaphora-based review of the grammar/pragmatics division of labor. BLS44, 213-227.(2)「談話内のことわざの代用機能とグライスの協調の原理の再評価」『語用論研究』20, 41-61.(1)は、英語の定名詞句の同一指示用法を題材に、文法と語用論の分業の在り方を議論し、Ariel 2010, 2017の言う意味で、文法は記号化の規則であり、語用論は推論の導き方であるという区分を発展させたものである。特に記述内容の豊かな定名詞句が前方照応的に使われる条件を明らかにし、そのような名詞句とことわざの談話機能の共通点を指摘した。ことわざは、先行文脈の主題の指示対象に類似の意味の名詞句を導入する機能があり、それを照応の観点から分析することを提案した。さらに、文法と語用論はともに文法的な慣習に作用するが、文法の関与が不完全なところに語用論が関与するという一般化を導いた。(2)は、日本語のことわざを題材に、文字通りの意味では語用論的説明に合致しない定型表現が談話で生産的に使われる理由を解明した。ことわざは先行文脈を評価し要約する機能を担うが、これはことわざが代名詞に類した代用表現であり、先行文脈から内容を受け取ることに由来する。代名詞が名詞句の代わりとして代-名詞であるように、ことわざは先行文脈の代わりとして代-談話表現と言えることを示した。この議論を英語の例に応用し、2019年11月にアメリカのAMPRA 4で、"Proverbs as proforms of evaluative utterances"と題し、研究発表した。これまでの私の照応研究は指示の同一性が中心だったが、意味の同一性の観点から、文法と語用論における照応の役割がより深く理解できてきた。