著者
増田 一太 西野 雄大 野中 雄太 山村 拓由 河田 龍人 笠野 由布子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0208, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】梨状筋症候群(以下,PS)は,運動時や座位時に殿部痛を主体とする圧迫型神経障害である。PSの発症には,不良座位姿勢が危険因子であることや鑑別試験であるPaceテストは座位で実施するなど,PSと座位時痛の関係性は深い。若年者を対象とした先行研究においても,座位時の梨状筋偏平化要因は殿部脂肪厚と比較的強いの正の相関(r=0.7,p=0.02)を認め,座位に伴う梨状筋の偏平化の可能性が示された。しかし,脂肪組織のクッション機能が経年的に低下することが報告されているため,PSの好発年齢である中年者においても先行研究の結果が必ずしも当てはまるとは言い難い。そこで今回,PS例を殿部痛の有無により分類し。殿部痛の発生要因を統計学的に検討したので報告する。【方法】対象は2014年4月より2015年3月までの間に,PSと診断され運動療法を終了した50名を対象とした。その内,座位時殿部痛を有する群(以下,S群)は21名(59.5±14.3歳)と座位時殿部痛を有さない群(以下,N群)29名(67.3±11.9歳)とした。検討した項目は身長,体重,BMI,性差,殿部最大周径,殿部最大周径をASIS間距離で除し正規化した殿部係数,レントゲンより計測した腰仙椎アライメント,腰椎前後角度とした。これらの検討項目から判別分析を行うために,性差にはカイ二乗検定,その他の項目には対応のないt検定を実施し検討項目を選別した。選別した項目に対しステップワイズ法による判別分析を用いて疼痛要因を分析した。統計学的処理の有意水準は5%未満とした。【結果】検討項目の選別において,年齢,体重,BMI,仙骨傾斜角,殿部最大周径,殿部係数に有意な差(p<0.05)を認めた。これらの項目に対し判別分析を実施した結果,BMI,殿部係数,年齢が座位時殿部痛の発生を判別するのに重要な因子であった。【結論】深部軟部組織は長時間座位に伴いより圧迫を受けやすいことや長時間の筋の圧迫による筋内圧上昇により脈管系を妨げ組織壊死を生じさせる可能性を指摘する報告がある。これらより,深層に存在する梨状筋は,長時間座位に伴い圧迫ストレスを持続的に受けやすく,また脈管系の阻害に伴い攣縮が生じやすい環境が存在するため,座位時殿部痛が継続的に生じる可能性が高い。判別分析の結果より座位時殿部痛の発生要因は,BMI,殿部係数,年齢の順に座位時殿部痛の発生に強く関与していることが分かった。S群において,BMI,殿部係数の低値など殿部脂肪組織厚が薄い可能性を示す所見が得られた。これは先行研究の結果の殿部脂肪組織厚と梨状筋の偏平化率との関係性を支持する結果であると考えることができる。またN群に比較し高い年齢帯であることは,経年的に脂肪組織のクッション機能が低下する報告とも整合性が得られる結果となった。これらより殿部脂肪組織の薄さは,座位時殿部痛との関係が深く,治癒阻害因子となる可能性が示唆された。
著者
西野 雄大 増田 一太 笠野 由布子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0721, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】肩こりは様々な定義が提唱されており,その多くは「後頭部から肩,肩甲部」にかけての範囲での症状を指す。また我が国における肩こり有訴者は欧米に比べ非常に多いが,肩こり自覚度と筋硬度の関係性は無いとの報告もあり,その病因は十分に解明されているとはいえない。そして,先行研究により肩こりの定義内には肩甲背神経由来の肩甲背部痛が包括されている可能性を報告した。そこで今回,肩こりの有訴症状の部位を分類し,それぞれの疼痛発生メカニズムを検討したので報告する。【方法】対象は平成26年12月~平成27年9月までに来院した椎間関節症および神経原性疾患が否定された「本態性肩こり」の症状を有する23名とした。平均年齢は57.3±16.7歳であった。有訴部位により頚部から肩甲上部の範囲の疼痛を主訴とする群(以下,U群)と肩甲背部痛群(以下,S群)で分類した。測定内容はVisual analogue scale,頚部・肩甲骨周囲筋の圧痛,頚椎・胸椎ROM,肩峰床面距離,X線画像により頚椎前弯距離,C2-7角,鎖骨の傾き,なで肩の有無を確認した。圧痛・なで肩の有無に対してはカイ二乗検定を,その他の項目の比較には対応のないt検定を実施した。さらに上位項目に対してステップワイズ法による判別分析を用いて疼痛要因を分析した。統計学的処理の有意水準は5%未満とした。【結果】U群と比較してS群において中斜角筋の圧痛に有意差を認めた(p<0.05)。また頚椎前弯距離,C2-7角においても2群間で有意差を認めた(p<0.05)。判別分析ではU群の発症に強く関連する因子は頚椎前弯距離,C2-7角,頚椎伸展可動域,なで肩,S群は頚椎前弯距離,C2-7角,頚椎伸展可動域,中斜角筋であった。【結論】肩こりの有訴部位の違いを検討したところU群17名,S群6名に分類され,3:1の比率でU群が多かった。本研究の結果から頚椎前弯距離,C2-7角,頚椎伸展可動域,なで肩,斜角筋が2群間で有意な関係性を認めた。U群はS群に比べてストレートネックやなで肩が多く,竹井やHarrisonらの報告を裏付ける結果であった。そのため肩甲挙筋を中心とした頚部伸筋群の緊張が高まり頚部から肩甲上部の範囲の疼痛が発生したと考えられた。一方,S群は頚椎前弯が正常よりも増強傾向であり,なで肩が有意に少なかったためU群に比べて下位頚椎と第1肋骨との距離が短縮し,中斜角筋の筋活動量が増大しやすい。また中斜角筋は頚椎伸展位で伸張されるため,頚椎伸展時には同筋の過活動が助長され肩甲背部痛が発生したと考えられた。本研究により,一般的な肩こりの定義内での頚部から肩甲上部の範囲での疼痛には頚椎アライメントやなで肩の有無が関与し,肩甲背部痛には中斜角筋での肩甲背神経のentrapment neuropathyが関与する可能性が示唆された。