著者
見市 文香
出版者
佐賀大学
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2014-04-01

寄生虫疾患は、発展途上国を中心に、地球規模で甚大な被害をもたらしている脅威の感染症である。未だに有効な治療法が確立していない疾患が多く存在しているのが現状である。寄生虫疾患の病原体、つまり寄生虫の多くで、ミトコンドリアが退化していることが知られている。退化したミトコンドリアは、ミトコンドリア関連オルガネラ(MRO)と総称され、その特殊性・重要性が徐々に解明されてきている。近年、申請者らは、寄生原虫の一種、赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)の“MRO”と“寄生適応”との密接な関係を明示した。具体的には、寄生性赤痢アメーバについて、1) 赤痢アメーバが持つMROである“マイトソーム”の主たる機能の1つが硫酸活性化であり、赤痢アメーバの生存に必須であること。2)その最終代謝産物の1つがコレステロール硫酸(CS)であること。3) CSがEntamoebaの形態変化である感染嚢子(シスト)形成の制御分子であること。4) CS合成阻害はシスト形成阻害を引き起こすこと。を見出した。さらにマイトソーム内にある硫酸活性化経路と細胞質にある硫酸基転移酵素(コレステロール硫酸合成酵素を含む)とを結ぶ輸送体としてマイトソーム内膜上に存在するmitochondrial carrier family (MCF)を同定した。以上のことから、赤痢アメーバのMROが真核生物のMROの例外では無く、必須オルガネラであること、さらにシスト形成という重要な生命現象に関わることを明らかにした。本研究成果は、2015年6月2日発行の科学雑誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the USA」および2015年9月発行の科学雑誌「Eukaryotic Cell」に掲載された(Mi-ichi et al, PNAS 2015, Eukaryotic Cell 2015)。