著者
岡部 和穂 角田 雅美 入江 宏 小池 秀海 吉野 佳一 辻 守康
出版者
杏林医学会
雑誌
杏林医学会雑誌 (ISSN:03685829)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.175-179, 1997-06-30 (Released:2017-02-13)
参考文献数
11

左顔面痙攣にて発症した脳有鉤嚢虫症の1例で,MRI所見の短期間における変化をとらえ得たので,報告した。症例は68歳男性中国人。約5分間持続する左顔面痙攣が出現し,その後も繰り返すため入院した。脳波では右前頭部に焦点をもつ限局性の突発波を認めた。頭部CTでは多数の小石灰化巣を認めた。MRIでは右大脳中心前回の石灰化巣に接して,ringenhanceされ周囲に浮腫を伴った病変を認めた。カウンター電気泳動法にて,血清中抗有鉤嚢虫抗体が弱陽性であった。また大腿部X線写真では筋肉内に多発性石灰化を認め,これらより脳有鉤嚢虫症と診断した。その後,治療開始前に,MRIで描出された右中心前回の浮腫は改善し,左顔面痙攣も消失した。この浮腫は嚢胞が石灰化する過程で虫体の一部が破裂し,周囲の脳組織に炎症を起こしたものと推察された。国際的な人的交流が盛んとなった今日,流行地でなくても本症の可能性について留意する必要があると思われる。