著者
谷 達彦
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.209-227, 2018 (Released:2021-08-28)
参考文献数
75

地方所得税のあり方をめぐる通説的議論は,応益課税の観点から比例的地方所得税が望ましいとする。しかし,ニューヨーク市の地方所得税は累進税率を採用しているうえ,低所得者の負担軽減を図る複数の税額控除を導入している。さらに近年は富裕者増税を中心とする改革論議が強まった。ニューヨーク市の地方所得税において応能課税の側面が重視される背景には所得格差の拡大,民主党への高い支持率,富裕者増税を支持する住民の世論がある。しかし,幼児教育拡充の財源を地方所得税の富裕者増税によって調達することを掲げたデブラシオ市長の改革案は,幼児教育における地域間格差拡大の回避を優先するニューヨーク州の承認を得られず挫折した。ニューヨーク市の事例は一般的ではないが,地方所得税のあり方をめぐる議論を豊富化する諸論点を示唆する。