著者
谷口 亜紀子
出版者
津山工業高等専門学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2017

近年、技術系女子学生が卒業後専門職についたとしても就労を断念するケースが半数以上にものぼり、社会的な損失になっている。これは女子学生が在学時に技術系専門職への展望をもてず、キャリアの見通しを立てることができないことが一因ではないかと考えられる。そこで技術系女子学生向けキャリア教育において、ロールモデル供給のあり方がカギになるのではないかという仮説を立て、高専を事例として技術職員の立場から効果のあるキャリア教育方法を模索することを目的とした。まずこれまで断片的に観察されてきた女子学生のキャリア形成・構想上のつまずき事例および技術系専門職としてのロールモデル獲得の成功・失敗事例を網羅的に収集した。女性はライフイベントの影響を受けやすいことや高専の多様性などを考慮し、対象者を30代後半以上の津山高専女性卒業者に限定した。今年度は正職員・パート勤務・主婦など調査協力者10名に対して聞き取り調査を行った。聞き取り調査後、収集された事例の分析を行った。初職を継続しているのは4名であり、長期的な正規職は6名と就労意欲は高かったものの、正規技術系専門職への就労はそのうち2名であることがわかった。これは専門職としての就労を不可能にする社会環境と卒業生個人に内面化されたジェンダー意識(性別役割意識)が原因と考えられる。このうち性別役割意識はキャリア教育の課題であると考えられる。また正規技術系専門職への就労は少なかったものの、津山高専での被教育経験に対して当事者としての満足度は高いことがわかった。そのため、津山高専のもつ機能として「技術系専門職」の教育機能だけではなくカリキュラム外教育を含めた教養教育機能が大きい役割を果たしている可能性が考えられる。ただし、これ自体は津山高専の独自な性質かもしれない。本研究の成果を2017年度日本高専学会第23回年会において報告し、その際に立高専の教職員と広く成果共有を図ることができた。また津山高専校内の発表会においても副校長や主事、教員と成果共有を図ることができた。今後はこうした事例の蓄積を積み上げ、長期的・継続的に調査を行うことが大切である。