著者
谷野 勝明
出版者
関東学院大学経済経営研究所
雑誌
関東学院大学経済経営研究所年報 (ISSN:13410407)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.21-39, 2020-03

『資本論』第二部初稿で「恐慌発生の仕組み」が「発見」され,その結果,マルクスの「恐慌観」は「激変」し,『資本論』の構成と内容も「大転換」したとの不破哲三氏の所説を検討した。「流通過程の短縮」は第二部初稿以前に把握されており,「突然のひらめき」ではない点,「経済循環のシミュレーション」と解された箇所は,恐慌への反転の契機が不明確で,回復局面も論じられていないので,「見事な成功」とは評価できない点を指摘し,氏の場合には「再生産過程」の「不均衡」の問題が過小評価されていることを明らかにした。そして,第三部の「利潤率の傾向的低下法則」論の現行版第15章部分が「取り消された」との説はマルクス書簡の誤解に基づき,「法則と恐慌との関連」は「宣言」に終わっているとの評価も,資本の過剰生産論の検討を欠いたり,誤読もある点を指摘し,その部分が「取り消され」ねばならない理由はなく、マルクスの「恐慌観」の「激変」もないことを主張した。