著者
岡嶋 裕史
出版者
関東学院大学経済経営研究所
雑誌
関東学院大学経済経営研究所年報 (ISSN:13410407)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.13-19, 2018-03

学生の活字離れが喧伝される中で,活字で組まれたテキストで学生に知識や技術を伝える試みが成立しにくくなりつつある。こうした学生の興味を維持するために,萌えを活用した教材の開発を行っている。ゲームやライトノベルとは異なる,教材というフォーマットの中で効率的に萌えを惹起するためには,萌えに対する深い理解が必要である。萌えとは何かについては大塚,東などの先行研究が明らかにしているが,具体的にどんな要素の組み合わせで萌えを誘発することができるかについては,議論がなかった。そこで本稿では,インターネット上でやり取りされているツイートを収集,解析することで,萌えと親和性の高い用語を抽出し,萌え要素の中に組み合わせて使用されやすいものがあるかを判定する研究を行った。
著者
殷 燕軍
出版者
関東学院大学経済経営研究所
雑誌
関東学院大学経済経営研究所年報 (ISSN:13410407)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.131-150, 2013-03

中国では,11月8日から始まった共産党第十八回代表大会は,2002年に最高指導者となった胡錦濤(Hu Jintao)の替わりに,習近平(XI Jinping)を総書記とする新執行部が選ばれた。また今年の3月に開かれる全国人民代表大会にて国家主席にも選ばれ,名実ともに中国の最高指導者になった。まさに10年一度の世代交代である。2002年胡錦濤氏をはじめとする中国指導部から10年経ったいま,中国の対外政策の変化も見え始めている。本稿は,21世紀最初の10年における胡錦濤体制の対外政策を振り返りつつ,習近平新体制の対外政策を予測してみたい。
著者
渡邉 憲正
出版者
関東学院大学経済経営研究所
雑誌
関東学院大学経済経営研究所年報 (ISSN:13410407)
巻号頁・発行日
no.41, pp.46-62,

マルクスは『経済学批判要綱』において資本主義的私的所有と無所有をテーマとして考察したとき,必ず歴史的なアプローチをとり,本源的所有(共同所有)の諸形態から資本主義的私的所有がいかに生成したかを貨幣章や資本章の各所で論じたが,それを系統的に論述することはなかった。そのためか,研究史でも本源的所有の解体過程ないし私的所有生成史は考察されることが少なく,マルクスの私的所有形態論は,『要綱』研究の欠落部分をなしている。本稿は,私的所有の生成に,共同体所有と対立した土地の私的所有と交換→商品生産→貨幣関係を媒介とする私的所有との2つの系統を区別し,それが相互作用を通じて貨幣資産を形成し,やがては資本主義的私的所有へと転化する過程に関するマルクスの把握を考察することによって,マルクスの私的所有形態論--私的所有生成史論--の整合的把握を試みた。
著者
岡嶋 裕史
出版者
関東学院大学経済経営研究所
雑誌
関東学院大学経済経営研究所年報 (ISSN:13410407)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.83-96, 2013-03

紙書籍から電子書籍へのシフトが喧伝され,専用の電子書籍端末,スマートフォン等汎用端末向けの電子書籍リーダソフトウェアの普及が進んでいる。電子書籍周辺には多くの利害関係者が存在するが,著者側の立場から思料する場合,新たな表現の場として,販売経路を拡大する手段として,また従前は敷居が高かった出版行為を大衆へと解放するエコシステムとして,概ね好意的に受け止められている。しかし,既存出版社から紙書籍とともに電子書籍を出版する事例では,新たに締結を求められるデジタル化契約によってこうした利益を享受することができず,電子書籍のみを販売する事例では従前出版社が負ってきた管理・広告等の負担が著者に求められる可能性を指摘できる。この危惧について,実際に出版をすることで実証実験を行った。
著者
殷 燕軍
出版者
関東学院大学経済経営研究所
雑誌
関東学院大学経済経営研究所年報 (ISSN:13410407)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.94-124,

1970年代はじめからスタートした米中関係改善と戦略的協議は,ただ単に米中両国間の問題ではなく,国際政治の枠組みに大きなインパクトを与え,世界を驚かせた。1949年の新中国成立後から22年も「隔絶」され,また朝鮮戦争やベトナム戦争により敵国同士となった米中両国は,自国の戦略的国益のため,極めて早いスピードで準同盟関係を結び,首脳同士の間にも一時的に「水入らず」的な信頼関係が形成された。しかも米国はアジア最大の同盟国である日本に事前通告なしで行なわれたため,戦後長い間米国の対中政策に追随してきた日本政府に大きく衝撃を与えた。言ってみれば米国の一種の対日裏切り行為である。そればかりではなかった。戦略交渉のなか,外交関係も持たない米中両国は,二国間問題,地域問題,世界問題など幅広く,深くかつ率直的な意見交換をし,日本問題は「意外」に重要なテーマの一つになった。1970年代の米中交渉は今日の米中関係の基礎とも言える重要な意味があり,その基本的原則は今日も変わっていない。他方,米中接近の連帯的効果として日中国交正常化が実現された。しかし米中接近にはなぜ「日本問題」は米中会談の一つのテーマにならなければならないのかが必ずしも検証されなかった。さらにこの二つの出来事は冷戦構造を変えたばかりではなく,東アジアの枠組みを変化させ,かつて単純な日米対中というイデオロギーで構成した「二者的関係」から日米中の三者関係へ変質させ,日米関係にも亀裂を生じさせた。本稿は近年米国側が公開した米中交渉に関する史料を根拠に,米中両国首脳の対日本認識と1970年代からスタートした日米中の三国関係を再考し,米中接近の意味,米中関係における日本問題の意味,日米関係における中国問題の意味を再吟味しようとするものである。
著者
殷 燕軍
出版者
関東学院大学経済経営研究所
雑誌
関東学院大学経済経営研究所年報 (ISSN:13410407)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.94-124,

1970年代はじめからスタートした米中関係改善と戦略的協議は,ただ単に米中両国間の問題ではなく,国際政治の枠組みに大きなインパクトを与え,世界を驚かせた。1949年の新中国成立後から22年も「隔絶」され,また朝鮮戦争やベトナム戦争により敵国同士となった米中両国は,自国の戦略的国益のため,極めて早いスピードで準同盟関係を結び,首脳同士の間にも一時的に「水入らず」的な信頼関係が形成された。しかも米国はアジア最大の同盟国である日本に事前通告なしで行なわれたため,戦後長い間米国の対中政策に追随してきた日本政府に大きく衝撃を与えた。言ってみれば米国の一種の対日裏切り行為である。そればかりではなかった。戦略交渉のなか,外交関係も持たない米中両国は,二国間問題,地域問題,世界問題など幅広く,深くかつ率直的な意見交換をし,日本問題は「意外」に重要なテーマの一つになった。1970年代の米中交渉は今日の米中関係の基礎とも言える重要な意味があり,その基本的原則は今日も変わっていない。他方,米中接近の連帯的効果として日中国交正常化が実現された。しかし米中接近にはなぜ「日本問題」は米中会談の一つのテーマにならなければならないのかが必ずしも検証されなかった。さらにこの二つの出来事は冷戦構造を変えたばかりではなく,東アジアの枠組みを変化させ,かつて単純な日米対中というイデオロギーで構成した「二者的関係」から日米中の三者関係へ変質させ,日米関係にも亀裂を生じさせた。本稿は近年米国側が公開した米中交渉に関する史料を根拠に,米中両国首脳の対日本認識と1970年代からスタートした日米中の三国関係を再考し,米中接近の意味,米中関係における日本問題の意味,日米関係における中国問題の意味を再吟味しようとするものである。
著者
中原 功一朗 中川 伸子
出版者
関東学院大学経済経営研究所
雑誌
関東学院大学経済経営研究所年報 (ISSN:13410407)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.54-70, 2008-03

本学経済学部においては,習熟度別クラス編成を伴うカリキュラムにより,英語教育を展開している。また,授業時間外学習を確保するために,学生支援室との連携システム,オンライン学習システムを構築している。2007年度春学期に,上記システムの利用者を対象として,授業時間外学習の状況と上記のシステムに関する意識を調査した。本稿においては,1)1年次カリキュラムと上記システムの概略を説明し,2)上記調査の結果を報告し,3)調査結果の解釈,分析,考察を行った。結果としては,上記システムは概ね有効に機能していると言えるが弱点も見えてきたので,今後の課題や改善のための方向性を提案した。
著者
岡嶋 裕史 オカジマ ユウシ OKAJIMA Yushi
出版者
関東学院大学経済経営研究所
雑誌
関東学院大学経済経営研究所年報 (ISSN:13410407)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.83-96, (Released:2013-08-05)

紙書籍から電子書籍へのシフトが喧伝され,専用の電子書籍端末,スマートフォン等汎用端末向けの電子書籍リーダソフトウェアの普及が進んでいる。電子書籍周辺には多くの利害関係者が存在するが,著者側の立場から思料する場合,新たな表現の場として,販売経路を拡大する手段として,また従前は敷居が高かった出版行為を大衆へと解放するエコシステムとして,概ね好意的に受け止められている。しかし,既存出版社から紙書籍とともに電子書籍を出版する事例では,新たに締結を求められるデジタル化契約によってこうした利益を享受することができず,電子書籍のみを販売する事例では従前出版社が負ってきた管理・広告等の負担が著者に求められる可能性を指摘できる。この危惧について,実際に出版をすることで実証実験を行った。
著者
大住 莊四郎
出版者
関東学院大学経済経営研究所
雑誌
関東学院大学経済経営研究所年報 (ISSN:13410407)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.115-130, 2014-03

AIは,ポジティブコアを活かしたありたいすがたを「未来の記憶」として共有し,それに至るタイムラインを創り実践していくことがその目的となる。このために,AIでは,基本的なアクティビティである「質問」「ダイアログ」「ストーリー」を組み立てていくことが,ポジティブサイクルをデザインする基本になる。「質問」ではサーキュラークエスチョンを核に4つのパターンを組み合わせて,情動記憶に基づくストーリーを引き出し,ダイアログでは,情動を活用した臨場感の高いダイアログが期待され,ストーリーでは,グループや組織レベルでの間接的なナラティヴを意図し,未来の記憶づくりとその実践につなげている。このようにAIでは,4Dサイクルのような全体のプロセスデザインにおける工夫だけではなく,個々のワークを構成する最小の活動単位である「質問」「ダイアログ」「ストーリー」においても,ポジティブサイクルを創造する設計がなされているのである。
著者
谷野 勝明
出版者
関東学院大学経済経営研究所
雑誌
関東学院大学経済経営研究所年報 (ISSN:13410407)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.21-39, 2020-03

『資本論』第二部初稿で「恐慌発生の仕組み」が「発見」され,その結果,マルクスの「恐慌観」は「激変」し,『資本論』の構成と内容も「大転換」したとの不破哲三氏の所説を検討した。「流通過程の短縮」は第二部初稿以前に把握されており,「突然のひらめき」ではない点,「経済循環のシミュレーション」と解された箇所は,恐慌への反転の契機が不明確で,回復局面も論じられていないので,「見事な成功」とは評価できない点を指摘し,氏の場合には「再生産過程」の「不均衡」の問題が過小評価されていることを明らかにした。そして,第三部の「利潤率の傾向的低下法則」論の現行版第15章部分が「取り消された」との説はマルクス書簡の誤解に基づき,「法則と恐慌との関連」は「宣言」に終わっているとの評価も,資本の過剰生産論の検討を欠いたり,誤読もある点を指摘し,その部分が「取り消され」ねばならない理由はなく、マルクスの「恐慌観」の「激変」もないことを主張した。
著者
石井 穣
出版者
関東学院大学経済経営研究所
雑誌
関東学院大学経済経営研究所年報 (ISSN:13410407)
巻号頁・発行日
vol.43, pp.43-60, 2021-03

カウツキーはドイツ・マルクス主義の理論的指導者として位置づけられ,少数民族に冷淡な立場をとったとされてきたが,近年ではオーストリアの民族問題に関連して,民族の自治や共生を支持したことが評価されるようになった。このような評価は,生態系におけるさまざまな生物の,また国際社会での諸民族の共存を強調する,カウツキーの進化論的考察とも合致する。だがカウツキーは,社会主義においては自然選択は消滅するため,人為選択による「人種の改良」が必要と論じていた。人種的な退化を防ぎ,改良をはかろうとする優生学的思想を意味する。この一方における「共生」の論理と,他方での「排除」をもたらしかねない論理は,どのように理解すればよいのか,検討が必要である。本稿では人口問題に関するカウツキーの立場をふまえ,「人種の改良」が論じられた理由を検討する。そして共生と優生学的な論理はいかに併存しているのか,考察する。
著者
金 宇烈
出版者
関東学院大学経済経営研究所
雑誌
関東学院大学経済経営研究所年報 (ISSN:13410407)
巻号頁・発行日
vol.29, pp.244-265, 2007-03

サムスン電子はブランド価値で,日本のソニーを抜いて世界20位の座を占めている。そして,2004年度の営業利益においては1兆円を越え,日本の大手電気電子企業9社の営業利益を合計した金額よりも大きい利益を稼ぎ出した。特に,サムスン電子はかつて日本のお家芸だった半導体メモリ,移動端末機,液晶パネルなどのエレクトロニクス産業分野で日本企業を退け,世界トップに躍り出ている。本稿は,移動通信端末機事業を通して,サムスン電子が「安かろう悪かろう」というイメージのメーカーから,「消費者の憧れる高級ブランド・メーカー」へ変革するプロセス,経営革新である「新経営」が事業展開に及ぼしたインパクト,そしてグへ変革するプロセス,経営革新である「新経営」が事業展開に及ぼしたインパクト,そしてグローバル戦略およびその成長要因を考察するものである。
著者
中村 友紀
出版者
関東学院大学経済経営研究所
雑誌
関東学院大学経済経営研究所年報 (ISSN:13410407)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.78-91, 2016-03

シャリヴァリという習俗儀礼が,直接的あるいは象徴的に近代初期イングランド演劇において表象された例は多く見られる。本論考では,近代初期イングランドにおいて顕著な形で発展した近代的演劇のテクストおよび社会的コンテクストに,当該社会に頻発したシャリヴァリ的暴動・騒擾と共通する心性を分析する。その心性とは,近代的個人としての自己認識に基づく自律性を持つものであるが,裏腹にその思考は新しい秩序や公権力に反発し対峙するにあたり,近代化以前の旧来的な権利や自然法を拠り所とし,保守的・地域主義的価値を示すものであった。このようなシャリヴァリが演劇という表象形態において表現されるとは,つまり表象システムが民衆心性を内在させているということである。さらには,暴動的心性の表現としてのドラマの受容は,民衆心性の近代化に影響力を持ったと考えられる。
著者
安田 八十五
出版者
関東学院大学経済経営研究所
雑誌
関東学院大学経済経営研究所年報 (ISSN:13410407)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.123-146,

2011年(平成23年)3月11日(金)に発生した東日本大震災によって日本の社会,ことに,東日本の地域社会は壊滅的な打撃を受けた。これには,「想定外」という想定を超えた大地震や大津波が発生したため,止むを得なかったという言い訳も見うけられる。しかしながら,地震学を中心とする現代の自然科学や工学のレベルでは,地震の予知や大津波の推測は,ほとんど不可能と言われており,自然科学や理工学を中心としたいわゆる理科系の学問のみに頼る大地震や大津波対策では対応は不可能と言っても言い過ぎではない。そこで,人文・社会科学や社会工学に基づく政策科学的なアプローチが今こそ求められている。筆者は,筑波大学在職中の1970年代から,1923年(大正12年)9月1日(土)に発生した関東大震災級の大地震が関東地方に発生した場合の,被害の予測及び復旧の方法の違いによるリスクシステム分析と政策シミュレーション分析等を研究し,オペレーションズ・リサーチ学会や地域学会等で発表して来た。例えば,約32年前に発表した安田八十五・土方正夫(1979)「第二次関東大震災のシミュレーション」(オペレーションズ・リサーチ学会誌,昭和54年9月)等を参照。そこで,今回の東日本大震災を主たる事例研究の対象として,阪神・淡路大震災,新潟中部大震災等も事例研究に加えて,大地震に伴う大津波や原子力発電所事故による被害の実態調査を行い,被害の最小化を実現するための地域社会システムの構築の仕方,及び復旧・復興・復活をスムーズに展開するための地域社会システムにおける政策の構築方法及び政策シミュレーション分析による政策代替案の評価等を実施し,政策分析と政策評価を行う。マクロエンジニアリング学会の循環型社会システム研究委員会にも協力してもらい,ことに,今回被害を受けた東北大学劉庭秀准教授(筑波大学安田ゼミ出身)と連携しながら,調査研究を進め,有効な政策提案を行う。
著者
小山 嚴也
出版者
関東学院大学経済経営研究所
雑誌
関東学院大学経済経営研究所年報 (ISSN:13410407)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.57-67, 2015-03

本稿の目的は,地域密着企業におけるフィランソロピー(社会貢献活動)の在り方について,1つのモデルを示すことにある。そのために,横浜におけるフィランソロピー先進企業である株式会社崎陽軒を取り上げ,同社の代表的なフィランソロピーを整理し,分析・検討した。その結果,地域密着型企業におけるフィランソロピーのあり方について,(1)人的,金銭的資源な制約が存在することから,単独でのフィランソロピーより複数企業の共同によるフィランソロピーが望ましい,(2)効果を考えた場合,複数の対象への支援が望ましい,(3)地域の経済団体を核に据えることがスムーズな企画運営を可能にする,(4)支援対象としては学校,とりわけ大学が「人材の採用」という観点からも有力となるということが明らかになった。
著者
渡邉 憲正
出版者
関東学院大学経済経営研究所
雑誌
関東学院大学経済経営研究所年報 (ISSN:13410407)
巻号頁・発行日
vol.39, pp.26-41, 2017-03

市民社会は,西欧の概念伝統においては国家に等しい。この場合,国家は,政治体制として社会的な再生産領域と対立する統治(支配)機関だけでなく,再生産領域をも包括する支配=被支配関係の全体を意味した。ところが,こうした「国家=市民社会」理解は戦後日本においてほとんど見失われ,市民社会は,一方では自由な諸個人の対等な関係からなる政治社会として理念化され,他方では経済社会あるいはブルジョア社会として把握されながら,しかも2つの系譜は「近代文明社会」として混交された。いずれの把握においても,市民社会における国家権力による統治--近代国家の「二重構造」--という肝心な契機が問われず,市民社会は政治的に理念化され,市民社会批判という課題が曖昧にされた。本稿は戦後日本の市民社会論が基本的に市民社会を「近代文明社会」として理解したことを確認し,このことがもつ問題性を指摘するものである。
著者
岡嶋 裕史
出版者
関東学院大学経済経営研究所
雑誌
関東学院大学経済経営研究所年報 (ISSN:13410407)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.49-68,

メダルゲームなどを嚆矢とする,ある共通プロトコルが適用される空間内の独自通貨は,発生時には玩具でしかなかった。しかし,近年はこれらの価値が増大し,その流通機構も複雑化の一途を辿っている。価値と複雑性を伴うシステムには,希望と可能性が生じる反面,悪用のリスクも不可避的に顕在化する。本論では,第1章,第2章において主にゲーム空間における仮想通貨の成立過程とRMTの現状をスクウェア・エニックスのファイナルファンタジー,リンデン・ラボのセカンドライフなどを例にとって俯瞰しつつ,第3章でリンデンドルに焦点を絞って,その普及の持つ意味,展望,脅威について考察する。
著者
鴨野 洋一郎
出版者
関東学院大学経済経営研究所
雑誌
関東学院大学経済経営研究所年報 (ISSN:13410407)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.51-63, 2016-03

1500年ごろオスマン帝国に滞在していた貿易商ジョヴァンニ・マリンギは,複数の会社や商人から商品を受け取り帝国内でそれを販売する駐在員であった。本稿では,彼がフィレンツェに送った書簡から駐在員であるオスマン貿易商の立場について考察を行った。そのさいマリンギとフィレンツェで毛織物を製造するヴェントゥーリ家との関係に着目し,同家がリオナルド・ヴェントゥーリをオスマン帝国に派遣し,マリンギが彼を受け入れるというできごとの経緯を追った。
著者
安田 八十五
出版者
関東学院大学経済経営研究所
雑誌
関東学院大学経済経営研究所年報 (ISSN:13410407)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.123-146, 2012-03

2011年(平成23年)3月11日(金)に発生した東日本大震災によって日本の社会,ことに,東日本の地域社会は壊滅的な打撃を受けた。これには,「想定外」という想定を超えた大地震や大津波が発生したため,止むを得なかったという言い訳も見うけられる。しかしながら,地震学を中心とする現代の自然科学や工学のレベルでは,地震の予知や大津波の推測は,ほとんど不可能と言われており,自然科学や理工学を中心としたいわゆる理科系の学問のみに頼る大地震や大津波対策では対応は不可能と言っても言い過ぎではない。そこで,人文・社会科学や社会工学に基づく政策科学的なアプローチが今こそ求められている。筆者は,筑波大学在職中の1970年代から,1923年(大正12年)9月1日(土)に発生した関東大震災級の大地震が関東地方に発生した場合の,被害の予測及び復旧の方法の違いによるリスクシステム分析と政策シミュレーション分析等を研究し,オペレーションズ・リサーチ学会や地域学会等で発表して来た。例えば,約32年前に発表した安田八十五・土方正夫(1979)「第二次関東大震災のシミュレーション」(オペレーションズ・リサーチ学会誌,昭和54年9月)等を参照。そこで,今回の東日本大震災を主たる事例研究の対象として,阪神・淡路大震災,新潟中部大震災等も事例研究に加えて,大地震に伴う大津波や原子力発電所事故による被害の実態調査を行い,被害の最小化を実現するための地域社会システムの構築の仕方,及び復旧・復興・復活をスムーズに展開するための地域社会システムにおける政策の構築方法及び政策シミュレーション分析による政策代替案の評価等を実施し,政策分析と政策評価を行う。マクロエンジニアリング学会の循環型社会システム研究委員会にも協力してもらい,ことに,今回被害を受けた東北大学劉庭秀准教授(筑波大学安田ゼミ出身)と連携しながら,調査研究を進め,有効な政策提案を行う。
著者
中原 功一朗 中川 伸子
出版者
関東学院大学経済経営研究所
雑誌
関東学院大学経済経営研究所年報 (ISSN:13410407)
巻号頁・発行日
vol.30, pp.54-70, 2008-03

本学経済学部においては,習熟度別クラス編成を伴うカリキュラムにより,英語教育を展開している。また,授業時間外学習を確保するために,学生支援室との連携システム,オンライン学習システムを構築している。2007年度春学期に,上記システムの利用者を対象として,授業時間外学習の状況と上記のシステムに関する意識を調査した。本稿においては,1)1年次カリキュラムと上記システムの概略を説明し,2)上記調査の結果を報告し,3)調査結果の解釈,分析,考察を行った。結果としては,上記システムは概ね有効に機能していると言えるが弱点も見えてきたので,今後の課題や改善のための方向性を提案した。